闇サイトで個人情報が売買される恐ろしい現実
SCSKセキュリティが2025年8月22日、Searchlight Cyberと提携してDark Webモニタリングサービスの提供を開始しました。この動きは、サイバーセキュリティ業界にとって非常に重要な意味を持ちます。
私がフォレンジックアナリストとして数々のサイバー攻撃事件を調査してきた経験から言えるのは、「攻撃者は常に私たちの想像を超える手段で情報を入手している」ということです。
実際に、昨年だけでも以下のような事例が発生しています:
- 中小企業A社:従業員のメール認証情報がDark Webで売買され、ビジネスメール詐欺の被害に遭い約500万円を騙取
- 個人事業主B氏:顧客情報がランサムウェア攻撃により流出し、Dark Webで公開。信頼失墜により廃業に追い込まれる
- IT企業C社:開発中のソースコードがDark Webで競売にかけられ、競合他社に技術情報が流出
Dark Webとは何か?なぜ危険なのか
Dark Web(闇サイト)は、一般的なブラウザではアクセスできない匿名化されたインターネット空間です。ここでは、盗まれた個人情報、企業機密、クレジットカード情報、パスワードなどが日常的に売買されています。
現役CSIRTメンバーとして調査を行っていると、以下のような情報が驚くほど安価で取引されているのを目の当たりにします:
- 銀行口座情報:1件あたり50〜200円
- クレジットカード情報:1件あたり100〜1,000円
- 企業のVPN認証情報:1件あたり5,000〜50,000円
- 医療機関の患者情報:1件あたり10〜100円
攻撃者が圧倒的に有利な理由
従来のサイバーセキュリティ対策は「攻撃されてから対応する」受け身の姿勢でした。しかし攻撃者は:
- 事前に徹底的な偵察活動を行う
- Dark Webから必要な情報を収集する
- 複数の攻撃ベクターを用意して攻撃を仕掛ける
このため、防御側は常に後手に回ってしまうのです。
Threat-Informed Defenseとは何か
今回SCSKセキュリティが提供開始したサービスの核となるのが「Threat-Informed Defense」という考え方です。これは「あらかじめ脅威を具体的に想定した上での防御」を意味します。
私がフォレンジック調査で関わった事例を紹介しましょう。
事例:製造業D社のケース
従業員数200名の製造業D社では、ある日突然全システムが暗号化され、身代金を要求されました。調査の結果、以下の経緯が判明:
- 6か月前:従業員のメールアカウント情報がフィッシング攻撃で窃取
- 4か月前:窃取した認証情報がDark Webで販売
- 2か月前:攻撃者が購入した認証情報でメールシステムに侵入
- 1か月前:内部ネットワークを偵察し、重要システムへの侵入経路を確保
- 攻撃実行:ランサムウェアを展開
もしD社がDark Webモニタリングを導入していれば、4か月前の時点で認証情報の流出を発見し、パスワード変更などの対策により被害を防げた可能性があります。
個人でもできるDark Web対策
企業向けサービスの話が中心でしたが、個人レベルでもDark Webの脅威から身を守る方法があります。
1. 強固なアンチウイルスソフト の導入
最新のアンチウイルスソフト
は、マルウェアの検知だけでなく、フィッシング攻撃やランサムウェアからも保護してくれます。特に以下の機能を持つ製品がおすすめです:
- リアルタイムスキャン機能
- Webプロテクション機能
- メール保護機能
- 身元盗用防止機能
2. VPN による通信の暗号化
公共Wi-Fiを利用する際は必ずVPN
を使用しましょう。攻撃者は公共Wi-Fiを狙って以下の攻撃を仕掛けてきます:
- パケット盗聴による認証情報の窃取
- 偽アクセスポイントによる中間者攻撃
- 悪意のあるWebサイトへの誘導
VPN
を使用することで、これらの攻撃から身を守ることができます。
中小企業が取るべき対策
中小企業の経営者の方には、以下の対策をおすすめします:
1. 定期的な脆弱性診断の実施
Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、攻撃者に狙われる前に脆弱性を発見・修正できます。特に以下の項目を重点的にチェックしましょう:
- Webアプリケーションの脆弱性
- ネットワーク機器の設定不備
- 古いソフトウェアの使用状況
- 従業員の教育状況
2. インシデント対応計画の策定
私が調査した事例の多くで、適切な初動対応が取れずに被害が拡大していました。以下の要素を含む対応計画を事前に策定しておくことが重要です:
- インシデント発生時の連絡体制
- システム分離・停止の判断基準
- 証拠保全の方法
- 外部専門機関への連絡先
今後のサイバーセキュリティの展望
SCSKセキュリティのDark Webモニタリングサービス開始は、日本のサイバーセキュリティ対策が「受け身から攻撃的防御へ」シフトしていく象徴的な出来事だと考えています。
今後は以下のような技術やサービスがさらに重要になるでしょう:
- AIを活用した脅威予測
- ゼロトラスト・アーキテクチャの普及
- サプライチェーン・セキュリティの強化
- クラウドセキュリティの高度化
まとめ:プロアクティブな対策の重要性
Dark Webモニタリングサービスの登場により、企業は攻撃者と同じ情報にアクセスし、先手を打った対策が可能になりました。しかし、技術だけでは完全な防御は不可能です。
個人レベルでは信頼できるアンチウイルスソフト
とVPN
の組み合わせが基本的な対策として有効です。企業レベルではWebサイト脆弱性診断サービス
と従業員教育を組み合わせた多層防御が不可欠です。
サイバー攻撃の手法は日々高度化していますが、基本的な対策を怠らず、新しいソリューションを適切に活用することで、リスクを大幅に軽減することができます。