サイバー犯罪の現場で日々調査を行っていると、最近のボイスフィッシング(振り込め詐欺)の手口の巧妙さには本当に驚かされます。韓国では今年、ボイスフィッシング被害額が史上初めて1兆ウォンを突破する見込みで、これは決して対岸の火事ではありません。
今回、韓国の金融界が打ち出した対策は、私たち日本のセキュリティ業界にとっても大変参考になる内容です。特に注目すべきは、技術的な対策だけでなく、人的対応も含めた総合的なアプローチを取っている点です。
新韓銀行が業界初の専門窓口を全店舗に設置
新韓銀行が全国652ヶ所の営業店に設置した「ボイスフィッシング安心守り窓口」は、まさに画期的な取り組みです。業務時間中に責任者級職員が常駐し、ボイスフィッシング関連業務を最優先で処理する体制を整えました。
この窓口では以下の業務を担当します:
- 被害顧客への相談対応
- 口座支給停止の迅速な処理
- 警察への申告手続き
- 本店との連絡調整
フォレンジック調査の現場でよく見るのですが、ボイスフィッシングの被害者は精神的にかなり動揺しているケースが多く、こうした専門窓口での迅速かつ丁寧な対応は被害の拡大防止に非常に効果的です。
AI技術を活用した次世代探知システム
IBK企業銀行がKTやLGユープラスと共同開発中のAIボイスフィッシング探知サービスも注目に値します。10月の発売を目指しているこのシステムは:
- 通話パターンの分析
- 銀行取引内訳の照合
- リアルタイムでの危険性判定
- 自動的な取引遮断機能
これらの機能を備えており、まさに次世代のセキュリティシステムといえるでしょう。
その他金融機関の革新的な取り組み
NH農協銀行では他人名義通帳の疑いがある口座に対するモニタリングシステムを構築し、ウリィ銀行では振り込め詐欺被害事例集を作成・配布するなど、各行が独自の対策を講じています。
これらの取り組みはすべて業界初の試みであり、韓国金融界全体がボイスフィッシング対策に本気で取り組んでいることがよくわかります。
日本の個人・企業が学ぶべきセキュリティ対策
韓国の事例から学べることは多くありますが、日本でも個人レベルでできる対策があります。
個人向けの基本的なセキュリティ対策
まず、個人のデバイスレベルでの対策が重要です。私が調査した事例でも、アンチウイルスソフト
が導入されていれば防げた被害が数多くありました。特に最新のセキュリティソフトは、フィッシングサイトの検出精度が格段に向上しており、ブラウザベースでの攻撃を効果的に防いでくれます。
また、公衆Wi-Fiを利用する機会が多い方は、VPN
の導入も検討すべきです。実際の調査事例では、空港や カフェの無料Wi-Fi経由で個人情報が漏洩し、それがボイスフィッシング攻撃の前段階として利用されたケースも確認しています。
企業向けの包括的なセキュリティ強化
企業の場合、従業員教育と技術的対策の両輪が必要です。特にWebサイトを運営している企業では、Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、攻撃者に悪用される脆弱性を事前に発見・修正できます。
実際に私が関わった企業のインシデント調査では、Webサイトの脆弱性を突かれて顧客情報が漏洩し、それを元にしたボイスフィッシング攻撃が行われた事例もありました。こうした被害を防ぐためにも、予防的なセキュリティ診断は欠かせません。
サイバー攻撃の被害事例から見る重要性
昨年対応したある中小企業の事例では、従業員のメールアカウントがフィッシング攻撃で乗っ取られ、それを足がかりに社内システムに侵入された後、顧客の個人情報が大量に窃取されました。その後、窃取された情報を使って顧客に対するボイスフィッシング攻撃が実行され、二次被害が発生しています。
このような事例を見ると、セキュリティ対策は「点」ではなく「面」で考える必要があることがよくわかります。個人のデバイス、ネットワーク通信、企業のWebサイト、すべてが連携してセキュリティを構成しているのです。
今後の展望と対策の重要性
韓国の金融界が示したような包括的な対策は、日本でも参考にすべき取り組みです。特にAI技術を活用したリアルタイム探知システムの開発は、今後のサイバーセキュリティ分野で主流になることは間違いありません。
ただし、技術的な対策だけでは限界があります。韓国の新韓銀行が専門窓口を設置したように、人的対応も含めた総合的なアプローチが重要です。
個人の方も企業の方も、今回紹介した韓国の事例を参考に、自分の環境に適したセキュリティ対策を検討してみてください。特に基本的な対策から始めることが、大きな被害を防ぐ第一歩となります。
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