韓国で月別過去最高のボイスフィッシング被害額を記録
韓国で発生したボイスフィッシング（振り込め詐欺）の被害が深刻な状況となっています。2024年7月の被害額は1345億ウォン（約135億円）を記録し、月別被害額として過去最高を更新しました。
この数字は、前年同月の667億ウォンと比較して実に2倍以上の増加となっており、サイバー犯罪の手口がより巧妙化していることを示しています。
2024年1〜7月の被害状況
- 発生件数：14,707件（前年同期比25.3%増）
- 被害額：7,766億ウォン（前年同期比98.7%増）
- 検挙人数：18,858人（前年同期比59.1%増）
特に注目すべきは、被害額の増加率が98.7%と、ほぼ倍増している点です。これは単純に件数が増えているだけでなく、一件あたりの被害額も大幅に増加していることを意味しています。
新たな脅威：仮想通貨を狙った手口が急増
従来のボイスフィッシングでは現金の振り込みが主な手口でしたが、最近では仮想通貨（暗号資産）を標的とした事例が急激に増加しています。
2024年1〜7月期において、ボイスフィッシング組織が被害者から仮想資産を奪取した事件は420件に上り、これは前年同期（64件）の6.6倍という驚異的な増加率です。
なぜ犯罪者が仮想通貨に注目するのか？
フォレンジック調査の現場で数多くの事例を見てきた経験から、犯罪者が仮想通貨を狙う理由は明確です：
- 追跡の困難さ：ブロックチェーン技術により、完全な匿名性は保てないものの、捜査には高度な技術と時間が必要
- 国境を越えた資金移動：従来の銀行システムと異なり、瞬時に海外へ資金を移動できる
- 技術的な知識不足：一般利用者の仮想通貨に関する知識不足を悪用
実際の被害事例から見る手口の巧妙化
私がフォレンジック調査で関わった事例の中から、個人情報を伏せて典型的なパターンをご紹介します。
事例1：IT企業経営者のケース
中小IT企業の経営者Aさん（50代）は、「金融監督院」を名乗る人物から電話を受けました。「あなたの名義で不正な仮想通貨取引が行われている。口座凍結を避けるため、一時的に安全な口座に資産を移してください」という内容でした。
結果的にAさんは会社の運転資金を含む3,000万円相当の仮想通貨を騙し取られ、事業継続が困難な状況に陥りました。
事例2：主婦をターゲットにした手口
主婦Bさん（40代）には、「息子が交通事故を起こし、示談金が必要。現金の準備が間に合わないので、仮想通貨で支払いたい」という詐欺電話がありました。
犯罪者は事前にSNSから家族構成を調査し、息子の声に似せた音声合成技術まで使用していました。
個人・企業が今すぐできる対策
個人向け対策
1. 不審な電話への基本対応
- 公的機関を名乗る電話でも、一度切って公式番号に確認する
- 家族の緊急事態を告げる電話は、必ず本人に直接連絡を取る
- 「今すぐ」「緊急」「秘密」などの言葉で焦らせる手口に注意
2. デジタル機器のセキュリティ強化
個人のスマートフォンやPCは、サイバー犯罪者にとって情報の宝庫です。アンチウイルスソフト
を導入することで、マルウェアやフィッシングサイトからの攻撃を効果的に防げます。
また、公共Wi-Fiを利用する際は、VPN
の使用が不可欠です。特に金融取引や重要な情報のやり取りを行う場合、暗号化されていない通信は犯罪者に盗聴される危険性があります。
企業向け対策
1. 従業員教育の徹底
- 定期的なセキュリティ研修の実施
- 最新の詐欺手口についての情報共有
- 疑わしい連絡があった際の報告体制の確立
2. システムレベルでの対策
企業のWebサイトは、フィッシング攻撃の踏み台として悪用される場合があります。Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、セキュリティホールを事前に発見し、対策を講じることができます。
被害に遭ってしまった場合の対処法
万が一被害に遭ってしまった場合、迅速な対応が被害拡大を防ぐカギとなります。
immediate actions（緊急対応）
- 関連機関への届出（24時間以内）
- 警察への被害届提出
- 金融機関への連絡
- 仮想通貨取引所への報告
- 証拠保全
- 通話記録やメッセージのスクリーンショット保存
- 取引履歴の保存
- 関連するメールやSMSの保管
デジタルフォレンジック調査の重要性
被害回復のためには、専門的なフォレンジック調査が必要になる場合があります。特に仮想通貨の場合、ブロックチェーン解析により資金の流れを追跡し、犯人特定や資産回収の可能性を探ることができます。
今後の展望と対策の進化
韓国の事例が示すように、ボイスフィッシングによる被害は年末に向けてさらに増加する可能性があります。2006年から2025年までの20年間で累積被害額が7兆ウォンを超える見込みという数字は、この問題の深刻さを物語っています。
しかし、適切な対策を講じることで、個人・企業レベルでリスクを大幅に軽減することは可能です。特に以下の点が重要です：
- 最新のセキュリティツールの活用
- 定期的な情報収集と教育
- 疑わしい状況での冷静な判断
- 専門家との連携体制の構築
まとめ
ボイスフィッシングの手口は日々進化し、従来の対策だけでは不十分な状況となっています。特に仮想通貨を狙った新しい手口の急増は、私たち全員が警戒すべき脅威です。
しかし、適切な知識と対策があれば、これらの脅威から身を守ることは十分可能です。個人レベルでのセキュリティ対策の強化と、企業レベルでの包括的な防御体制の構築が、今後ますます重要になっていくでしょう。
サイバーセキュリティは「転ばぬ先の杖」です。被害に遭ってから対策を考えるのではなく、今この瞬間から行動を開始することが、あなたと大切な人たちを守る最良の方法なのです。
