こんにちは。現役のフォレンジックアナリストとして、日々サイバー犯罪の現場に立ち会っている私が、最近のフィッシング詐欺の実態について詳しく解説します。
最新の調査によると、フィッシング詐欺の手口は驚くほど巧妙化しており、従来の対策だけでは太刀打ちできない状況になっています。実際に私が担当した事例では、ごく普通の会社員が「佐川急便からのSMS」に騙され、個人情報と銀行口座の情報を抜き取られ、数十万円の被害に遭ったケースもありました。
急増する国際電話詐欺の実態
2025年7月の最新データでは、詐欺電話の60.4%が国際電話番号からの発信となっており、その中でも「ニセ警察詐欺」が深刻な問題となっています。
特に注目すべきは「劇場型」と呼ばれる新しい手口です。これは、最初に通信事業者のオペレーターや官公庁職員を名乗る人物が電話をかけ、その後「警察官」に電話を転送するという巧妙な仕組みです。
実際の被害事例
私が調査した事例では、70代の男性が以下のような流れで騙されました:
- NTTを名乗る人物から「回線に不正アクセスがある」との電話
- 「警察の担当者に転送します」と言われ、別の人物に
- 警察官を名乗る人物が「あなたの口座が犯罪に使われている可能性がある」
- 「確認のため暗証番号を教えてほしい」と要求
この男性は幸い家族が気づいて被害を免れましたが、一歩間違えれば数百万円の損失になるところでした。
宅配事業者なりすまし詐欺の復活
一時期減少傾向にあった宅配事業者をかたるSMS詐欺が、2025年7月に52.1%まで急増しています。特に「佐川急便」や「ヤマト運輸」を名乗る偽SMSが横行しており、巧妙さが増しています。
最新の手口の特徴
現在のSMS詐欺は、以下のような特徴があります:
- 公式サイトとほぼ同じデザインの偽サイト
- 実在する追跡番号を使用
- 緊急性を煽る文言(「本日中に再配達手続きを」など)
- 正規のドメインに似せたURL
実際に被害に遭った30代女性のケースでは、「佐川急便」からの「不在通知」SMSをクリックし、偽サイトでクレジットカード情報を入力してしまい、その後不正利用されて約15万円の損害を受けました。
金融・決済サービス詐欺の巧妙化
金融・決済サービスをかたる詐欺も30.6%と高い割合を占めており、特に「三菱UFJニコス」などの実在する企業名を悪用する手口が急増しています。
フォレンジック調査で判明した手法
私が調査したケースでは、犯罪者グループが以下のような高度な技術を使っていました:
- 正規サイトのHTMLコードをほぼ完全にコピー
- SSL証明書を取得して「https://」で信頼性を演出
- IPアドレスを定期的に変更して追跡を困難に
- フィッシングサイトの滞在時間を短くして検知を回避
個人・中小企業が取るべき対策
私がCSIRTメンバーとして推奨する対策は以下の通りです:
1. 技術的対策
まず最も重要なのは、信頼性の高いアンチウイルスソフト
を導入することです。最新のアンチウイルスソフトには、フィッシングサイトを事前に検知してブロックする機能が搭載されており、URLをクリックする前に危険性を警告してくれます。
また、海外からの不審なアクセスをブロックするためにVPN
の使用も効果的です。VPNを使用することで、自分の本当の所在地を隠しながら、安全なサーバー経由でインターネットにアクセスできます。
2. 行動面での対策
- 電話では絶対に個人情報を教えない:警察や銀行が電話で暗証番号を聞くことは絶対にありません
- SMSのリンクは直接クリックしない:必ず公式サイトから直接アクセス
- 緊急性を煽る内容は疑う:「今すぐ」「本日限り」などの表現は詐欺の常套句
- 家族や同僚と情報共有:一人で判断せず、必ず相談する
3. 企業向けの対策
中小企業の場合、従業員教育と同時に技術的な対策も重要です。特にWebサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、自社サイトが詐欺サイトの踏み台にされていないかチェックできます。
実際に私が調査した事例では、正規の企業サイトが乗っ取られ、フィッシングサイトのリダイレクト先として悪用されていたケースが複数ありました。定期的な脆弱性診断により、このような被害を未然に防ぐことが可能です。
被害に遭ってしまった場合の対処法
もし詐欺被害に遭ってしまった場合は、以下の手順で対処してください:
- すぐに銀行・カード会社に連絡:口座凍結やカード停止の手続き
- 警察に届け出:被害届の提出(サイバー犯罪相談窓口:#9110)
- パスワードの変更:関連するすべてのアカウントのパスワードを変更
- デジタル鑑識の専門家に相談:証拠保全とさらなる被害の防止
まとめ
フィッシング詐欺は日々進化しており、従来の「怪しいメールを開かない」程度の対策では不十分です。技術的な対策と意識改革の両方が必要になります。
特に重要なのは:
- 最新のアンチウイルスソフト
による保護
- VPN
による通信の暗号化
- 定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施
- 継続的な教育と意識向上
サイバー犯罪の現場に立ち続ける私から言えることは、「完璧な防御は存在しない」ということです。しかし、適切な対策を講じることで、被害のリスクを大幅に減らすことは確実に可能です。