中国系APTグループの攻撃が急増している現実
最近、私たちCSIRT(Computer Security Incident Response Team)のもとに寄せられるインシデント報告で、明らかに中国系と思われる高度な攻撃グループ(APT:Advanced Persistent Threat)による被害が急増しています。
これまで国家レベルの機関や大企業だけが標的だと思われていたAPT攻撃ですが、実際のフォレンジック調査を行っていると、中小企業や個人も標的になっているケースが珍しくありません。
実際に遭遇したAPT攻撃の事例
先日対応した事例では、地方の製造業A社(従業員50名程度)が、一見すると単純なマルウェア感染に見えましたが、詳細な調査を行うと、以下のような特徴が見つかりました:
- 初期侵入から完全な情報窃取まで約3か月間の潜伏
- 複数の正規ツールを悪用した「Living off the Land」手法
- 特定の技術情報のみを狙い撃ちした選択的データ窃取
- 痕跡を消去する高度な隠蔽工作
このような組織的で継続的な攻撃は、明らかに個人のハッカーではなく、国家が背景にある APT グループの仕業と判断されます。
中国系APTグループの攻撃手法と特徴
長年のフォレンジック調査経験から見えてきた、中国系APTグループの典型的な攻撃パターンをご紹介します。
1. 初期侵入の巧妙化
従来のような明らかに怪しいメールではなく、以下のような手法が使われています:
- スピアフィッシング:ターゲットの関心事に合わせたカスタマイズされた攻撃メール
- 水飲み場攻撃:ターゲットがよく訪問するWebサイトを改ざん
- サプライチェーン攻撃:信頼できる第三者経由での侵入
2. 長期潜伏による情報収集
APT攻撃の最大の特徴は、一度侵入すると数か月から数年間にわたって潜伏し続けることです。この間に:
- ネットワーク内の重要なシステムへの横展開
- 管理者権限の奪取
- 価値のあるデータの特定と収集
- バックドアの設置
実際の調査では、初回侵入から発見まで平均して200日以上経過しているケースが多く見られます。
個人・中小企業が狙われる理由
「うちは小さな会社だから狙われることはない」と考えている経営者の方も多いのですが、実際はそうではありません。
個人が狙われるケース
個人のケースでは、以下のような目的で攻撃されることがあります:
- 踏み台として利用:より大きなターゲットへの攻撃の中継地点
- 個人情報の収集:身元確認や社会工学攻撃の材料として
- 金銭目的:仮想通貨の窃取やランサムウェア攻撃
先月対応した個人のケースでは、フリーランスのエンジニアの方が、取引先の大手企業への攻撃の踏み台として利用されていました。本人は全く気づいておらず、アンチウイルスソフト
での定期スキャンで偶然発見されたものです。
中小企業が狙われる理由
中小企業については、以下の理由から狙われやすくなっています:
- セキュリティ対策の不備:予算や人材不足によるセキュリティホール
- サプライチェーンの一部:大手企業との取引関係を悪用
- 特殊技術・情報の保有:ニッチな技術や顧客情報
効果的な対策とセキュリティ強化
フォレンジック調査の現場で見てきた被害を踏まえ、実際に効果のある対策をお伝えします。
個人でできる基本対策
1. 定期的なセキュリティスキャン
APT攻撃は潜伏期間が長いため、定期的なシステムチェックが重要です。アンチウイルスソフト
なら、高度な脅威も検出できる機能を持っているので、個人でも企業レベルのセキュリティを確保できます。
2. 通信の暗号化
特に公共Wi-Fiを使用する際は、VPN
で通信を暗号化することが必須です。APTグループは、暗号化されていない通信を狙って情報収集を行うことがよくあります。
3. ソフトウェアの定期更新
- OS の自動アップデート設定
- ブラウザやプラグインの最新化
- セキュリティパッチの迅速な適用
企業が取るべき対策
1. Webサイトの脆弱性対策
企業のWebサイトは、APT攻撃の重要な侵入経路となります。Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、攻撃者が悪用する前に脆弱性を発見・修正できます。
2. 従業員教育の徹底
- フィッシングメールの見分け方
- 不審なファイルを開かない習慣
- USB メモリなど外部記憶媒体の管理
- インシデント発生時の報告体制
3. ネットワーク監視体制の構築
- 異常な通信パターンの検出
- ログの保存と定期的な分析
- 侵入検知システム(IDS)の導入
被害に遭った時の初動対応
万が一サイバー攻撃を受けた場合、初動対応が被害の拡大を防ぐ鍵となります。
immediate Actions(即座に行うべき対応)
- 感染端末の隔離:ネットワークからの物理的な切断
- 証拠保全:電源を切らずにメモリダンプの取得
- 関係者への通知:社内関係者、取引先、場合によっては当局
- 専門家への相談:フォレンジック調査会社やCSIRTへの連絡
やってはいけないNG行動
- 感染端末の電源を切る(メモリ上の重要な証拠が失われる)
- ウイルス対策ソフトでの自動駆除(証拠隠滅になる可能性)
- システムの再起動(攻撃の痕跡が消える)
- 独断での対応(被害拡大のリスク)
将来を見据えたセキュリティ戦略
中国系APTグループの攻撃は、今後さらに巧妙化・複雑化すると予想されます。単発的な対策ではなく、継続的なセキュリティ向上が必要です。
個人の長期戦略
- セキュリティリテラシーの向上:最新の攻撃手法に関する情報収集
- 多層防御の実装:アンチウイルスソフト
、VPN
の組み合わせ利用
- バックアップ体制の構築:重要データの定期的なバックアップ
企業の長期戦略
- 定期的な脆弱性診断:Webサイト脆弱性診断サービス
による継続的なセキュリティチェック
- インシデント対応体制の整備:社内CSIRT の構築
- サプライチェーンセキュリティ:取引先を含めたセキュリティ強化
まとめ:今こそ本気のセキュリティ対策を
中国系APTグループによるサイバー攻撃は、もはや他人事ではありません。フォレンジック調査の現場で日々目にする被害の実態を踏まえると、個人・企業を問わず、今すぐにでもセキュリティ対策を強化する必要があります。
特に重要なのは、「自分は大丈夫」という思い込みを捨て、現実的な脅威として向き合うことです。適切なセキュリティツールの導入と継続的な警戒により、APT攻撃の被害を未然に防ぐことができます。
明日攻撃を受けるかもしれない現実を前に、今できる対策から始めることをお勧めします。