こんにちは。デジタルフォレンジックアナリストとして日々サイバー攻撃事案の調査に携わっている私から見ても、2025年のフィッシング詐欺の急増ぶりには正直驚かされています。
警察庁の最新データによると、2025年上半期(1~6月)だけでフィッシング詐欺の報告件数が119万6314件に達し、半期としては過去最多を記録しました。しかも、これは報告されたもののみ。実際の被害はこの数倍に上ると推測されます。
特に注目すべきは、従来のメール型フィッシングに加えて「ボイスフィッシング」という新しい手口が確認されていること。電話で直接情報を聞き出す手法で、IT リテラシーの高い方でも騙されやすい巧妙な仕組みになっています。
急増する証券口座乗っ取り被害の実態
最近の調査で最も深刻なのが証券口座の乗っ取り被害です。数字を見ると背筋が凍る思いがします:
- 証券会社をかたるフィッシングメール:1月104件→5月7万3857件(約710倍増)
- 不正売買額:1月約2億8千万円→4月約2924億円(約1043倍増)
私が実際に調査した事例でも、ある個人投資家の方が偽の証券会社サイトでログイン情報を入力してしまい、一晩で800万円相当の株式が勝手に売買されていました。犯人は盗んだアカウントで意図的に株価を操作し、別のアカウントで利益を得る複雑なスキームを使用していたのです。
新手口「ボイスフィッシング」の脅威
2024年秋頃から確認されているボイスフィッシングは、メール型よりもさらに巧妙です。実際の被害事例をご紹介しましょう。
東京都の会社員Aさん(40代)のケース:
ある日の夕方、銀行を名乗る男性から電話がありました。「お客様の口座で不審な取引を検知しました。セキュリティ確認のためお聞きしますが…」と丁寧な口調で、段階的に個人情報を聞き出されたそうです。
このケースでは、最終的にインターネットバンキングのワンタイムパスワードまで騙し取られ、翌朝には預金残高がゼロになっていました。
フォレンジック調査から見える犯行手口の進化
私たちCSIRTチームが扱う事案を分析すると、フィッシング詐欺の手口は年々巧妙化しています:
1. 完璧に近い偽装サイト
最近の偽サイトは、本物とほぼ見分けがつかないレベルまで精巧に作られています。SSL証明書も取得し、URLも似たようなドメインを使用。一見すると正規サイトと区別できません。
2. リアルタイム情報収集
入力された情報を即座に正規サイトで検証し、間違いがあれば「パスワードが違います」などのエラーメッセージを表示して再入力を促す仕組みも確認されています。
3. 多段階認証の突破
ワンタイムパスワードやSMS認証も、リアルタイムで中継することで突破する「リアルタイムフィッシング」が主流になりつつあります。
個人ができる効果的な対策方法
フォレンジック調査の現場で見てきた経験から、効果的な対策をお伝えします:
1. 基本的なセキュリティ対策の徹底
まず大前提として、信頼できるアンチウイルスソフト
の導入は必須です。最新のフィッシングサイトをリアルタイムで検知し、アクセスを自動的にブロックしてくれます。
2. 通信の暗号化
公衆Wi-Fiなどの不安全なネットワーク環境では、VPN
を使用することで通信内容の盗聴を防げます。特に金融機関のサイトにアクセスする際は必須と考えてください。
3. URLの直接入力習慣
メール内のリンクは絶対にクリックせず、必ずブラウザのアドレスバーに直接URLを入力する習慣をつけましょう。手間はかかりますが、これだけでフィッシング被害の8割は防げます。
4. 二要素認証の有効活用
可能な限り、SMS認証ではなくGoogle AuthenticatorやMicrosoft Authenticatorなどのアプリベース認証を選択してください。SMSは SIM スワップ攻撃で突破される可能性があります。
企業が取るべき対策
企業の場合、個人以上に複雑で高度な対策が必要になります。私が調査した中小企業の事例では、社員一人のフィッシング被害から始まって、最終的に顧客データベース全体が漏洩するという深刻なケースもありました。
定期的な脆弱性診断の実施
Webサイトのセキュリティホールを悪用したフィッシングサイトの設置を防ぐため、Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することが重要です。特に顧客情報を扱うサイトでは、最低でも四半期に一度は診断を受けるべきでしょう。
社員教育の徹底
技術的な対策と同じくらい重要なのが、社員への継続的な教育です。最新のフィッシング手口を共有し、実際のメール例を使った訓練を定期的に実施しましょう。
被害に遭ってしまった場合の対処法
もしフィッシング詐欺の被害に遭ってしまった場合、迅速な対応が被害拡大を防ぐカギとなります:
- 即座にパスワード変更:影響を受けた可能性のある全てのアカウントのパスワードを変更
- 金融機関への連絡:銀行や証券会社に緊急連絡し、口座の一時凍結を依頼
- 警察への被害届:最寄りの警察署またはサイバー犯罪相談窓口に連絡
- 証拠の保全:フィッシングメールや偽サイトのスクリーンショットを保存
まとめ:予防こそが最大の防御
フィッシング詐欺の被害が急増している今、「自分は大丈夫」という油断が最も危険です。特に2025年に確認されているボイスフィッシングは、従来の対策だけでは防ぎきれない新しい脅威です。
デジタルフォレンジックの現場で数多くの被害を目の当たりにしてきた私からのお願いは、まず基本的なセキュリティ対策を確実に実行していただくこと。そして、常に最新の脅威情報にアンテナを張っていただくことです。
サイバー犯罪者たちは日夜新しい手口を開発し続けています。私たちも負けじと、しっかりとした防御体制を築いていきましょう。