近年のサイバー攻撃は年々巧妙化し、その被害は企業や個人を問わず深刻化しています。特に注目すべきは、脆弱性を狙った攻撃の急増です。PwCコンサルティングの最新分析によると、共通脆弱性識別子(CVE)の発行件数は2015年の6,472件から2024年には34,553件と5倍以上に急増しており、もはや従来の脆弱性管理では対応しきれない状況になっています。
実際に悪用された脆弱性568件の詳細分析結果
PwCが実施した直近2年間の脆弱性悪用実態調査では、実際にサイバー攻撃で悪用された568件の脆弱性を詳細に分析しました。この調査結果から、攻撃者が狙いやすい脆弱性の特徴が明確に浮かび上がってきました。
最も狙われるのはネットワーク機器の脆弱性
分析結果で最も衝撃的だったのは、悪用された脆弱性の最多がVPN機器やファイアウォールなどのネットワーク機器であったことです。これらの機器は企業のセキュリティの要となる部分でありながら、インターネットに公開される性質上、攻撃者の格好の標的となっています。
総務省や警察庁の報告でも、ランサムウェア感染の主要経路としてVPN機器が最も利用されていることが確認されており、今回の分析結果と一致しています。つまり、ネットワーク機器のセキュリティ対策が企業全体のサイバーセキュリティの鍵を握っていると言えるでしょう。
個人ユーザーも無関係ではない脅威の実態
企業だけでなく、個人ユーザーも同様のリスクに晒されています。特に在宅勤務が普及した現在、家庭用ルーターやVPN接続を利用する機会が増えており、これらの機器の脆弱性が狙われるケースが急増しています。
個人ユーザーができる最も効果的な対策の一つが、信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入です。これにより、既知の脅威を自動的に検知・除去し、システムの脆弱性を狙った攻撃から身を守ることができます。
CVSSスコアから見る脆弱性の危険度判定
今回の分析では、悪用された脆弱性の約90%がCVSSスコアでHigh以上の評価を受けていることが判明しました。CVSSスコアは脆弱性の深刻度を数値化したもので、以下の要素が高く評価される傾向にありました:
- ネットワーク経由で攻撃が可能
- 攻撃の複雑さが低い
- 必要な特権レベルが低い
- 機密性・完全性・可用性への影響が大きい
ただし、Medium以下の脆弱性でも一定数の悪用が確認されているため、CVSSスコアだけに頼った判断は危険です。包括的なセキュリティ対策が必要不可欠となります。
攻撃手法の分析から見えるサイバー攻撃の実態
MITRE ATT&CKフレームワークに基づく攻撃手法の分析では、以下の3つのカテゴリが攻撃の大部分を占めていることが明らかになりました:
- Initial Access(初期アクセス):システムへの不正侵入
- Execution(実行):マルウェアの実行
- Privilege Escalation(特権昇格):より高い権限の奪取
これらは攻撃の初期段階で使用される手法であり、攻撃者がシステムに足がかりを築くための重要なステップです。この段階で攻撃を阻止することが、被害拡大防止の鍵となります。
個人ユーザーが今すぐ実践すべきセキュリティ対策
企業レベルの脅威分析から見えてきた傾向は、個人ユーザーのセキュリティ対策にも重要な示唆を与えています。特に以下の対策は、今回の分析結果を踏まえた効果的な防御策と言えるでしょう。
多層防御の重要性
単一のセキュリティ対策だけでは不十分であることが、今回の分析からも明確になりました。効果的な防御には以下の組み合わせが重要です:
- 包括的なアンチウイルスソフト
による脅威検知:リアルタイムでの脅威監視と自動除去
- 安全なVPN
による通信保護:インターネット通信の暗号化と匿名化
- 定期的なソフトウェア更新:既知の脆弱性への迅速な対応
ネットワーク機器のセキュリティ強化
今回の分析で最も悪用されたのがネットワーク機器であったことを受け、個人ユーザーも以下の点に注意が必要です:
- ルーターのファームウェア定期更新
- デフォルトパスワードの変更
- 不要なリモートアクセス機能の無効化
- 信頼できるVPN
を使用したセキュアな接続
テレワーク時代のセキュリティ課題
コロナ禍以降、テレワークが一般化したことで、個人のネットワーク環境も企業セキュリティの一部となりました。家庭のネットワークを経由した企業システムへの不正アクセスが増加しており、個人ユーザーのセキュリティ意識がより重要になっています。
特に公衆Wi-Fiを利用する際は、通信内容の盗聴や中間者攻撃のリスクが高まります。こうした環境では、VPN
による通信の暗号化が必須となり、安全なリモートワーク環境の構築に不可欠です。
プロアクティブなセキュリティ対策の重要性
今回の分析結果から、攻撃者は効率的に悪用できる脆弱性を狙って攻撃を仕掛けてくることが明確になりました。つまり、攻撃を受けてから対応するのではなく、事前の予防策が何より重要です。
効果的なアンチウイルスソフト
は、既知の攻撃パターンを学習し、未知の脅威に対しても高い検知能力を発揮します。また、定期的なシステムスキャンにより、潜在的な脆弱性を早期発見することも可能です。
今後のサイバーセキュリティトレンド
脆弱性の発行件数が5倍以上に増加している現状を踏まえると、今後もサイバー攻撃の脅威は拡大し続けると予想されます。特に以下の点が重要なトレンドとなるでしょう:
- AI技術を活用した攻撃の増加:より巧妙で自動化された攻撃手法
- IoT機器を狙った攻撃の拡大:スマートホーム機器等の脆弱性悪用
- ランサムウェアの進化:より効率的な感染経路の開発
- ゼロデイ攻撃の増加:未知の脆弱性を狙った攻撃
これらの脅威に対抗するには、従来の対策に加えて、最新の脅威インテリジェンスを活用した動的な防御システムが必要です。
実践的なセキュリティ対策チェックリスト
今回の分析結果を踏まえ、個人ユーザーが今すぐ実践できるセキュリティ対策をまとめました:
基本対策(必須)
- 信頼性の高いアンチウイルスソフト
のインストールと定期更新
- オペレーティングシステムの自動更新設定
- 強固なパスワードの設定と多要素認証の有効化
- 不要なソフトウェアのアンインストール
応用対策(推奨)
- 企業グレードのVPN
による通信保護
- 定期的なデータバックアップ
- ネットワーク機器のセキュリティ設定見直し
- セキュリティ意識向上のための情報収集
まとめ:プロアクティブなセキュリティ対策の重要性
PwCの分析結果は、現代のサイバー脅威の深刻さと、プロアクティブなセキュリティ対策の重要性を改めて浮き彫りにしました。脆弱性の急増と攻撃手法の巧妙化が進む中、個人ユーザーも企業レベルのセキュリティ意識を持つことが不可欠です。
特に、ネットワーク機器の脆弱性が最も狙われやすいという今回の発見は、個人のネットワーク環境においても同様のリスクが存在することを示しています。包括的なアンチウイルスソフト
による脅威検知と、信頼できるVPN
による通信保護を組み合わせた多層防御が、現代のサイバー脅威に対する最も効果的な対策と言えるでしょう。
サイバーセキュリティは一度設定すれば終わりではなく、継続的な改善と更新が必要な取り組みです。今回の分析結果を参考に、自身のセキュリティ対策を見直し、より安全なデジタル環境の構築を目指しましょう。