2025年9月、滋賀県近江八幡市の公式X(旧Twitter)アカウントが第三者による不正アクセスで乗っ取られるという事件が発生しました。現役フォレンジックアナリストとして数多くのアカウント侵害事件を調査してきた私が、この事件から見えるSNSセキュリティの重要なポイントと対策について解説します。
事件の概要:信頼される公式アカウントが狙われた
2025年9月19日頃、滋賀県近江八幡市の魅力発信課が運用する公式Xアカウント「@omigyu_hachiman」が不正アクセスを受け、アカウントが乗っ取られました。幸い、現時点で個人情報の流出や二次被害は確認されていませんが、公式アカウントという信頼性を悪用される可能性があったため、深刻な事態です。
実際のフォレンジック調査の現場では、このような自治体のSNSアカウント乗っ取り事件は年々増加傾向にあります。攻撃者にとって、公的機関のアカウントは高い信頼性を持つため、フィッシング攻撃やマルウェア配布の踏み台として格好のターゲットなのです。
なぜ乗っ取られたのか?考えられる4つの要因
今回の事件では具体的な侵入経路は調査中ですが、過去の類似事例から以下の要因が考えられます。
1. パスワードの脆弱性
推測しやすいパスワードや他サービスとの使い回しは、最も多い侵入経路の一つです。私が調査した事例では、「市名+年号」といった単純なパスワードが使われていたケースもありました。
2. 二要素認証(MFA)の未設定
SNSアカウントの乗っ取りの約70%は、二要素認証が設定されていれば防げたと考えられています。特に公式アカウントでは必須の対策です。
3. 共用アカウントの運用リスク
複数の職員が同一のログイン情報を共有することで、認証情報が拡散し、管理が困難になります。退職者の権限削除漏れなども深刻な問題です。
4. 外部連携アプリの権限過大
SNS管理ツールやBotなど、第三者アプリに過剰な権限を与えることで、そのアプリ経由で不正アクセスされる可能性があります。
被害を最小化するための緊急対応手順
アカウント乗っ取りが疑われる場合、以下の手順で迅速に対応することが重要です。
利用者側の対応
- 公式アカウントを装った連絡や、外部サイトに誘導するURL付きの投稿・DMを絶対に開かない
- アカウント名・IDの綴り違い(なりすまし)を確認する
- 短縮URLは特に注意し、クリックを避ける
- 返信や個人情報入力、ログイン要求に絶対に応じない
- X上の「報告」機能で通報し、アカウントをブロックする
組織側の対応
- 即座にパスワードを変更する
- すべてのアクティブセッションを終了させる
- 連携している外部アプリの権限を確認・取り消し
- プラットフォーム運営会社への被害報告
- 利用者への注意喚起の発信
企業・自治体が実践すべき予防策
フォレンジック調査の経験から、効果的な予防策をお伝えします。
技術的対策
- 強固なパスワードポリシーの策定:12文字以上、英数字記号の組み合わせ
- 二要素認証の必須化:SMS、認証アプリ、ハードウェアトークンの活用
- 定期的なアクセスログの監査:異常なログイン時刻や場所の検出
- 外部連携アプリの最小権限化:必要最小限の権限のみ付与
運用面での対策
- 個人アカウント制の導入:共用アカウントの廃止
- 権限管理の徹底:役職変更・退職時の即座な権限削除
- 定期的なセキュリティ教育:フィッシング攻撃への対処法習得
- インシデント対応計画の策定:有事の際の迅速な対応体制構築
中小企業でも実践できるセキュリティ対策
「うちは小さな会社だから大丈夫」という考えは危険です。実際に私が対応した事例では、従業員10名程度の小規模企業でも、SNSアカウントの乗っ取りから顧客情報の流出に発展したケースがありました。
中小企業でも導入しやすい対策として、アンチウイルスソフト
の活用をおすすめします。最新のマルウェア対策だけでなく、フィッシング攻撃からの保護機能も充実しており、SNSアカウントの認証情報を狙う攻撃からも従業員を守ることができます。
また、リモートワークが増えている現在、社外からのアクセス時のセキュリティも重要です。VPN
を活用することで、暗号化された安全な通信路を確保し、公衆Wi-Fi経由でのアカウント情報漏洩を防ぐことができます。
Webサイトとの連動リスクも忘れずに
SNSアカウントが乗っ取られた場合、連動しているWebサイトへの攻撃に発展する可能性もあります。特に、SNS経由でWebサイトへの誘導を行っている組織では、サイト自体の脆弱性も定期的にチェックする必要があります。
私が調査した事例では、SNSアカウント乗っ取り後に、連動するWebサイトに悪意のあるリンクが埋め込まれ、訪問者のデバイスにマルウェアが感染したケースもありました。このような被害を防ぐため、Webサイト脆弱性診断サービス
の定期実施をおすすめします。
まとめ:継続的な対策が組織の信頼を守る
近江八幡市の事例は、どんな組織でも起こりうる脅威であることを示しています。しかし、適切な技術的・運用的対策を講じることで、被害を大幅に軽減できます。
特に重要なのは、一度対策を講じて終わりではなく、継続的にセキュリティレベルを向上させることです。攻撃手法は日々進化しているため、私たち守る側も常にアップデートしていく必要があります。
組織の信頼と利用者の安全を守るため、今回紹介した対策をぜひ実践してみてください。