企業のサイバーセキュリティにおいて、もっとも厄介な問題の一つが「内部からの不正アクセス」です。外部からの攻撃に目が向きがちですが、実際のところ、特権IDを悪用した内部犯行による情報漏洩は年々増加傾向にあります。
2025年9月30日、株式会社インサイトテクノロジーが発表した新しい不正アクセス検知・データベース監査効率化ツール「Insight Inspector」は、まさにこの課題に正面から取り組むソリューションとして注目を集めています。
なぜ今、不正アクセス検知が重要なのか?
現役のCSIRTメンバーとして多くのインシデント対応を経験してきましたが、最近特に目立つのが「特権IDの不正使用」による被害です。
実際にあった深刻なケース
ある中堅IT企業では、退職予定のシステム管理者が機密情報を持ち出そうとしていました。通常の監査では発見が困難でしたが、幸い包括的な監査システムがあったため、未申請でのデータベースアクセスを検知し、大規模な情報漏洩を未然に防ぐことができました。
もしこの企業に適切な監査システムがなかったら、顧客データ数万件が競合他社に流出していた可能性があります。損害額は軽く数億円を超えていたでしょう。
Insight Inspectorの革新的な仕組み
今回発表されたInsight Inspectorの最大の特徴は、データベース監査ソフトウェア「Insight PISO」と特権アクセス管理ツール「iDoperation」を連携させる点にあります。
従来の監査システムの限界
これまでの多くの企業では、データベースアクセスログと作業申請記録が別々に管理されていました。その結果:
- 膨大なログから不正アクセスを見つけるのに数日かかる
- 正当な作業か不正アクセスかの判別が困難
- 監査担当者の負担が極めて大きい
新システムがもたらす変化
Insight Inspectorは、これらの課題を一気に解決します:
- 自動突合機能:作業申請とアクセスログを自動で照合
- リアルタイム検知:未申請アクセスを即座に発見
- 効率化:手動監査の工数を大幅削減
中小企業こそ注意すべき内部脅威
「うちは小さな会社だから大丈夫」と思っている経営者の方も多いのですが、実はそれは大きな誤解です。
中小企業が狙われる理由
フォレンジック調査の現場で見えてきたのは、中小企業ほど内部統制が甘く、不正行為が発見されにくいという現実です。
- システム管理者が一人で複数の権限を持っている
- アクセスログの監査が形式的
- 退職者のアカウント管理が不十分
実際の被害事例
ある製造業の中小企業では、元社員が退職後もVPN経由でシステムにアクセスし続け、新製品の設計図を盗み出していました。発覚までに3ヶ月かかり、競合製品が先に市場投入される結果となりました。
この企業が失ったものは:
- 研究開発費:約5,000万円
- 予想売上機会損失:約2億円
- 顧客の信頼:計り知れない
個人でもできるセキュリティ対策
企業レベルのセキュリティシステムは重要ですが、個人や小規模事業者でもできる対策があります。
基本的な防御策
- アンチウイルスソフト
の導入:マルウェア感染を防ぐ最初の砦
- VPN
の活用:通信の暗号化と匿名化
- 定期的なパスワード変更:特に特権アカウントは要注意
企業が取るべき総合的なセキュリティ戦略
Insight Inspectorのようなツールの導入は重要ですが、それだけでは十分ではありません。
多層防御の考え方
- 予防:アンチウイルスソフト
やファイアウォールでの侵入阻止
- 検知:不正アクセス検知システムでの早期発見
- 対応:インシデント発生時の迅速な対処
- 復旧:被害の最小化と正常化
Webサイト運営者が忘れがちなポイント
特にECサイトや会員制サイトを運営している企業は、Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することをお勧めします。SQLインジェクションやXSS攻撃の脆弱性は、気づかないうちに作り込まれていることが多いのです。
2025年のサイバーセキュリティトレンド
今年に入ってから、サイバー攻撃の手口はより巧妙になっています。
注目すべき脅威
- AIを悪用したソーシャルエンジニアリング:より精巧な詐欺メール
- サプライチェーン攻撃:信頼できるベンダー経由での侵入
- ランサムウェア2.0:暗号化だけでなく情報公開の脅迫
これらの脅威に対抗するためにも、Insight Inspectorのような包括的な監査システムの重要性は今後さらに高まるでしょう。
まとめ:今すぐ始められる対策
サイバーセキュリティは「やらなければならないこと」ではなく、「やらないと致命的な損失を被る可能性があること」です。
個人・小規模事業者向け
- 信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入
- 公衆Wi-Fi利用時のVPN
使用
- 定期的なソフトウェア更新
企業向け
- 特権アクセス管理システムの導入検討
- Webサイト脆弱性診断サービス
による定期チェック
- 従業員のセキュリティ教育強化
Insight Inspectorのようなツールが普及することで、企業のデータベースセキュリティは確実に向上するでしょう。しかし、ツールだけに頼らず、組織全体でセキュリティ意識を高めることが最も重要です。
一次情報または関連リンク
株式会社インサイトテクノロジー、不正アクセス検知・データベース監査効率化ツール「Insight Inspector」をリリース – Yahoo!ニュース