アサヒグループのサイバー攻撃、その深刻な影響
2025年9月29日、アサヒグループホールディングスがサイバー攻撃を受け、システム障害が発生したことが発表されました。午前7時頃に障害が確認され、国内グループ各社の受注・出荷業務が完全停止、さらにお客様相談室などのコールセンター業務も取りやめる事態となっています。
現在のところ個人情報や顧客データの外部流出は確認されていないとのことですが、これだけ大規模な企業システムが停止するということは、攻撃者がかなり深くまでネットワークに侵入していた可能性が高いです。
大手企業でも起こるサイバー攻撃の現実
フォレンジックアナリストとして多くのインシデント対応を経験してきた私から言わせれば、アサヒグループのような大企業でもサイバー攻撃の脅威は避けられません。実際に、2022年のトヨタ関連企業への攻撃、2021年の富士フイルムへのランサムウェア攻撃など、日本の大手企業を狙った攻撃は年々増加傾向にあります。
特に今回のように「システム障害」という表現が使われる場合、以下のような攻撃パターンが考えられます:
- ランサムウェア攻撃:システムを暗号化し、身代金を要求
- DDoS攻撃:大量のアクセスでサーバーをダウンさせる
- 内部システムへの不正アクセス:APT攻撃による長期潜伏後の破壊活動
中小企業こそ狙われやすい理由
「うちは大企業じゃないから大丈夫」と思っていませんか?実はその逆です。中小企業の方がサイバー攻撃のターゲットになりやすいんです。
理由は明確です:
- セキュリティ対策が不十分
- 専門のセキュリティ担当者がいない
- 従業員のセキュリティ意識が低い
- サプライチェーン攻撃の踏み台にされやすい
実際に私が対応した事例では、従業員30名程度の製造業で、メール添付ファイルからランサムウェアに感染し、3日間の業務停止に追い込まれたケースがありました。復旧費用だけで500万円以上かかっています。
個人でもできる実践的なセキュリティ対策
企業レベルの話だけでなく、個人レベルでも今すぐ実践できる対策があります。特に在宅ワークが増えた今、個人のセキュリティ意識が企業全体のリスクに直結します。
1. アンチウイルスソフト の導入は最低限の防御線
まず基本中の基本として、信頼できるアンチウイルスソフト
の導入は必須です。無料のセキュリティソフトもありますが、企業データを扱う可能性があるなら、有料の高機能版を選ぶべきです。
特に重要なのはリアルタイム保護機能です。怪しいファイルを開く前に検知・隔離してくれるため、被害を未然に防げます。
2. VPN で通信を暗号化
在宅ワークやカフェなどでの作業時には、VPN
の使用を強く推奨します。特に公衆Wi-Fiを使用する際は、通信内容が盗聴される危険性が高いためです。
私が調査したケースでは、空港のフリーWi-Fiを使っていた出張中のビジネスマンが、偽のアクセスポイントに接続してしまい、メールアカウントを乗っ取られた事例もあります。
企業が今すぐ実施すべき対策
アサヒグループの事例を受けて、企業が今すぐ実施すべき対策をCSIRTの観点からお伝えします。
1. インシデント対応計画の策定
攻撃を受けた際の初動対応が、被害の拡大を左右します。以下の要素を含む計画を作成してください:
- 緊急連絡網の整備
- システム停止判断の権限者明確化
- 外部専門機関との連携体制
- 顧客・取引先への報告手順
2. Webサイト脆弱性診断サービス の定期実施
Webサイトの脆弱性は攻撃者の格好の標的です。Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、セキュリティホールを事前に発見・修正できます。
特にECサイトや顧客情報を扱うWebアプリケーションを運営している企業は、四半期に一度の診断を推奨します。
3. 従業員教育の徹底
技術的な対策だけでなく、人的な要素も重要です。フィッシングメールの見分け方、怪しいUSBメモリを拾っても接続しないなど、基本的なセキュリティ意識の向上が必要です。
被害に遭ったときの初動対応
万が一サイバー攻撃の被害に遭った場合の初動対応も重要です。間違った対応をすると、証拠隠滅や被害拡大につながります。
フォレンジック調査の重要性
攻撃を受けた際は、まず以下を実行してください:
- システムの隔離:感染したシステムをネットワークから切断
- 証拠保全:ログファイルやメモリダンプの取得
- 専門機関への相談:警察やJPCERT/CCへの報告
- 関係者への連絡:顧客や取引先への適切な情報提供
特に証拠保全は、後の損害賠償や保険請求において重要な要素となります。素人判断でシステムを再起動したり、データを削除したりしないでください。
まとめ:予防こそが最大の防御
アサヒグループの事例が示すように、どんな企業でもサイバー攻撃のターゲットになり得ます。重要なのは「攻撃を受けること」を前提とした多層防御の構築です。
個人レベルではアンチウイルスソフト
とVPN
の活用、企業レベルではWebサイト脆弱性診断サービス
の定期実施と従業員教育の徹底が基本となります。
サイバーセキュリティは「コスト」ではなく「投資」です。被害を受けてからの復旧費用や信用失墜を考えれば、事前の対策にかかる費用は決して高くありません。
今回のアサヒグループの迅速な情報開示と対応は評価できますが、私たちも他人事として捉えず、自社・自身のセキュリティ対策を見直す良い機会として活用していきましょう。