2025年9月2日、セキュリティベンダーのPalo Alto Networksが自社のSalesforce環境への不正アクセスを公表しました。この攻撃は、SalesloftのAIエージェント「Salesloft Drift」を介したサプライチェーン攻撃によるもので、複数企業が同様の被害を受けていることが判明しています。
今回の事件は、現代の企業が直面するサイバーセキュリティの複雑さを如実に表しています。セキュリティ企業でさえ狙われる時代において、一般企業はどのような対策を講じるべきなのでしょうか。
今回の不正アクセスの詳細
Palo Alto Networksが公開した情報によると、攻撃者はSalesloftのAIエージェント「Salesloft Drift」を足がかりとして同社のSalesforce環境に侵入しました。流出したデータには以下が含まれています:
- 業務上の連絡先情報
- 社内の営業アカウント
- 顧客関連の基本的な情報
幸い、同社の製品やシステム、サービスへの直接的な影響はなかったとされていますが、機密性の高いデータが漏えいした恐れがある顧客には直接連絡を取っているとのことです。
サプライチェーン攻撃の恐ろしさ
今回の攻撃で注目すべきは、その手法がサプライチェーン攻撃であることです。これは、標的企業を直接攻撃するのではなく、その企業が利用するサードパーティーのサービスやソフトウェアを経由して攻撃を行う手法です。
フォレンジック調査を行っていると、このようなサプライチェーン攻撃による被害は年々増加していることを実感します。特に中小企業では、利用している外部サービスのセキュリティ状況まで把握しきれていないケースが多く、思わぬところから攻撃を受けてしまうことがあります。
企業が直面する現実的な脅威
実際のフォレンジック事例を見ると、サプライチェーン攻撃による被害は以下のような形で現れることが多いです:
中小企業のケース
ある製造業の企業では、社内で利用していたクラウドサービスのプラグインが攻撃を受け、そこから社内ネットワークに侵入されました。最初は単なるシステム障害と思われていましたが、詳細な調査により、顧客データベースが丸ごと外部に送信されていたことが判明しました。
個人事業主のケース
フリーランスのWebデザイナーが利用していた制作ツールのプラグインが感染源となり、制作中のクライアントサイトが全て改ざんされた事例もあります。この場合、クライアントからの損害賠償請求に発展し、事業の継続が困難になってしまいました。
効果的な対策とは
サプライチェーン攻撃から身を守るには、多層防御が不可欠です。特に以下の点が重要になります:
1. エンドポイント保護の強化
まず基本となるのは、各端末でのアンチウイルスソフト
の導入です。従来型のウイルス対策では検知できない新しい脅威に対応できる製品を選択することが重要です。特に、AIを活用した行動分析機能を持つ製品であれば、未知の攻撃手法にも対応可能です。
2. ネットワーク通信の監視
サプライチェーン攻撃では、正規のサービスを装って不正な通信が行われることが多いため、VPN
を利用して通信経路を暗号化し、同時に不審な通信を監視することが効果的です。
3. Webアプリケーションの脆弱性対策
企業のWebサイトやアプリケーションが攻撃の入り口となることを防ぐため、定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施が不可欠です。プロの診断により、潜在的な脆弱性を事前に発見・修正することができます。
インシデント発生時の対応
万が一、サプライチェーン攻撃を受けた場合の対応も重要です。Palo Alto Networksの対応を参考にすると、以下のステップが効果的です:
- 即座の封じ込め:感染源となったサービスやツールを直ちに切り離す
- 被害範囲の特定:専門チームによる詳細な調査を実施
- ステークホルダーへの報告:影響を受ける可能性のある関係者への迅速な連絡
- 復旧と再発防止:システムの復旧と併せて、再発防止策の実装
今後の展望と対策の重要性
今回のPalo Alto Networksの事例は、どんなに優れたセキュリティ企業であっても、サプライチェーン攻撃の脅威からは完全に逃れることができないことを示しています。
特に中小企業や個人事業主の場合、限られたリソースの中で効率的にセキュリティ対策を実施する必要があります。そのためには、信頼できるセキュリティ製品を適切に組み合わせ、継続的な監視と改善を行うことが重要です。
サイバー攻撃の手法が日々進化する中で、私たちも常に最新の脅威情報をキャッチし、適切な対策を講じていく必要があります。今回の事例を教訓として、自社のセキュリティ体制を見直してみてはいかがでしょうか。