滋賀県警察本部が企業向けに実施しているサイバー攻撃対策セミナーが注目を集めています。2021年から開始されたこの取り組みは、これまでに160回開催され、延べ4500人が受講するなど、企業のサイバーセキュリティ意識向上に大きく貢献しています。
しかし、サイバー攻撃の脅威は企業だけでなく、私たち個人にも深刻な影響を与えています。フォレンジックアナリストとして数多くのサイバー犯罪事件を分析してきた経験から、個人が直面するリスクと対策について詳しく解説します。
企業が狙われる理由と個人への波及効果
企業を標的としたサイバー攻撃が増加している背景には、以下の要因があります:
- 大量の個人情報を保有している
- 金銭的な価値の高い機密情報が存在する
- セキュリティ対策が不十分な中小企業が多い
- 在宅勤務の普及により攻撃面が拡大している
実際に私が調査した事例では、地方の製造業企業が標的型メール攻撃を受け、顧客情報3万件が流出した案件がありました。この企業の従業員が自宅で業務用PCを使用していた際に、家族が使用する個人PCからマルウェアが感染し、企業ネットワークに侵入されたケースです。
個人が直面するサイバー攻撃の実例
企業攻撃の手法は、そのまま個人攻撃にも応用されています。以下は実際のフォレンジック調査で確認された個人への攻撃例です:
1. 偽ショッピングサイト詐欺
滋賀県警のセミナーでも紹介された偽ショッピングサイト。調査した事例では、被害者が「破格の値段」に誘われてブランド品を購入しようとしたところ、クレジットカード情報を盗まれ、約50万円の不正利用被害に遭いました。
2. 標的型メール攻撃
個人宛てにも巧妙な標的型メールが送られてきます。「宅配便の不在通知」や「銀行からの重要なお知らせ」を装ったメールにより、個人PCがマルウェアに感染し、オンラインバンキングの認証情報が盗まれる事例が増加しています。
3. ランサムウェア攻撃
企業だけでなく個人PCも標的となるランサムウェア。調査した案件では、個人の写真や動画、仕事のデータが全て暗号化され、復号のために暗号通貨での支払いを要求されたケースがありました。
個人レベルでできる効果的な対策
CSIRTでの経験を基に、個人が実践すべき具体的な対策をご紹介します:
1. 信頼性の高いアンチウイルスソフト の導入
企業セキュリティと同様に、個人PCにも高性能なアンチウイルスソフト
が必要不可欠です。リアルタイム保護機能により、標的型メールに添付されたマルウェアや、Webサイト経由の脅威を事前に検知・遮断できます。
2. VPN による通信の保護
在宅勤務や外出先でのインターネット利用時は、VPN
が重要な役割を果たします。特に公共Wi-Fiを使用する際は、通信内容の暗号化により、中間者攻撃やデータ傍受から身を守ることができます。
3. 偽サイトの見極め方
滋賀県警のセミナーで紹介された識別方法に加え、以下の点も確認しましょう:
- URLの綴りミスや不自然なドメイン名
- SSL証明書の有無(https://の確認)
- 連絡先情報の記載状況
- 日本語の不自然さ
被害に遭った場合の初動対応
万が一サイバー攻撃の被害に遭った場合、以下の手順で対応することが重要です:
- 感染が疑われるデバイスのネットワーク接続を直ちに遮断
- オンラインバンキングやクレジットカードの利用停止
- パスワードの変更(感染していないデバイスから)
- 警察署への被害届提出
- 専門機関への相談
フォレンジック調査の観点から、感染したデバイスの電源は切らずに、専門家の指示を仰ぐことをお勧めします。不適切な操作により、証拠が消失する可能性があります。
継続的なセキュリティ教育の重要性
滋賀県警の西岡氏が指摘するように、「新しい手口が次々と出てくる」のがサイバー攻撃の特徴です。企業だけでなく、個人も継続的な情報収集と対策の見直しが必要です。
特に家族でのセキュリティ意識共有は重要で、高齢者や子供も含めた家族全体での対策が、現代のデジタル社会で安全に生活するための基本となります。
サイバー攻撃の脅威は年々巧妙化していますが、適切な知識と対策により、個人レベルでも十分に身を守ることができます。企業が実施している対策を参考に、個人のデジタルライフも守っていきましょう。
一次情報または関連リンク
企業などを狙ったサイバー攻撃が相次ぐ中、滋賀県警察本部は企業や団体を対象に対策などを学ぶセミナーを行っています。 – NHK大津放送局