2025年9月29日、アサヒグループホールディングスから衝撃的な発表がありました。ランサムウェア攻撃により、受注・出荷業務がほぼ全面停止。復旧の目処も立たない深刻な状況に陥っています。
フォレンジックアナリストとして数々のインシデント対応を経験してきた私から見ると、これは氷山の一角に過ぎません。実際、警察庁のデータによれば、2025年上期のランサムウェア被害件数は116件で半期として過去最多を記録。もはや「うちは大丈夫」という楽観論は通用しない時代になっています。
なぜアサヒグループほどの大企業が狙われたのか?
多くの人が「大企業なら万全なセキュリティ対策をしているはず」と考えがちですが、これは大きな誤解です。実は、大企業ほどサイバー犯罪者にとって魅力的なターゲットなのです。
その理由は明確です:
- 高額な身代金を支払う能力がある
- 事業停止による損失が巨大なため、支払いに応じやすい
- 複雑なシステム構成により、攻撃の侵入口が多い
- メディアの注目を集め、犯罪組織の宣伝効果が高い
ランサムウェア攻撃の恐ろしい実態
情報処理推進機構(IPA)の金山栄一氏が説明するように、ランサムウェア攻撃は「コンピューターやシステムのデータを暗号化して使えない状態にし、復旧のために身代金を要求する」手法です。
しかし、現実はさらに深刻です。私がこれまで対応した事例では:
【実例1】中小製造業A社のケース
従業員50名の部品製造会社で、経理担当者が開いた不審なメール添付ファイルからランサムウェアが感染。全サーバーのデータが暗号化され、3週間の業務停止に。復旧費用は約500万円、機会損失を含めた総被害額は2,000万円を超えました。
【実例2】地方の病院での被害
患者データベースがランサムウェアで暗号化され、診療業務が完全停止。緊急患者の受け入れもできない状況に陥り、地域医療に深刻な影響をもたらしました。
宮崎県内でも被害が拡大中
帝国データバンクの調査によると、宮崎県内企業の18.1%がサイバー攻撃を経験済み。これは決して他人事ではありません。
宮崎県警察本部サイバー企画課の本山課長補佐も警鐘を鳴らしています:「金融機関等の重要インフラ事業者に対するサイバー攻撃が相次いでおり、県内でも同様の事案が発生している」
今すぐ実践すべきセキュリティ対策
IPAの専門家が推奨する基本対策は以下の通りです:
1. 修正プログラムの迅速な適用
ソフトウェアの脆弱性は攻撃者の主要な侵入口です。特にWindows UpdateやOffice製品の更新は最優先で実行してください。
2. アンチウイルスソフト の導入と最新化
個人・法人問わず、信頼性の高いアンチウイルスソフト
は必須です。定義ファイルの自動更新を必ず有効にしましょう。
3. 定期的なバックアップ
「3-2-1ルール」を実践してください:
- 3つのコピーを保持
- 2つの異なる媒体に保存
- 1つはオフラインまたは遠隔地に保管
4. 強固なパスワード管理
多要素認証(MFA)の導入は絶対です。特にリモートアクセス環境では、VPN
との組み合わせでセキュリティレベルを大幅に向上できます。
中小企業が直面する現実的な課題
「セキュリティが重要なのは分かるけど、専門知識もないし予算も限られている」という声をよく聞きます。確かに、専任のIT部署がない企業では対策に限界があります。
そんな企業には、まず以下のアプローチをお勧めします:
外部専門家の活用
システム部署がない場合は、信頼できる外部サポートへの依頼を検討してください。月額数万円から利用できるマネージドセキュリティサービスも増えています。
Webサイトの脆弱性対策
企業サイトが攻撃の起点になるケースも多いため、Webサイト脆弱性診断サービス
による定期的な点検は必須です。
個人ユーザーも他人事ではない
企業だけでなく、個人のPCがランサムウェアに感染するケースも急増しています。特に在宅勤務の普及により、個人端末から企業ネットワークへの二次被害も深刻な問題となっています。
個人でできる基本対策:
- 怪しいメールの添付ファイルは絶対に開かない
- アンチウイルスソフト
を必ず導入し、常に最新状態を保つ
- 重要データの定期バックアップ
- 公衆Wi-Fi利用時はVPN
で通信を暗号化
まとめ:備えあれば憂いなし
アサヒグループの事例は、どんな大企業でもサイバー攻撃の脅威から完全に逃れることはできないという現実を突きつけました。しかし、適切な対策を講じることで被害を大幅に軽減することは可能です。
重要なのは「完璧なセキュリティは存在しない」という前提に立ち、継続的な改善を心がけること。特に中小企業や個人事業主の方は、まず基本的な対策から始めて、徐々にセキュリティレベルを向上させていくことをお勧めします。
サイバー攻撃は決して他人事ではありません。今日から、できることから始めてみてください。