岡山県が運営する複数のホームページに不正アクセスが発生し、8つのサイトが公開停止に追い込まれました。現役のCSIRT(Computer Security Incident Response Team)として数多くのインシデント対応を経験してきた立場から、今回の事案の詳細と企業が取るべき対策について解説します。
岡山県ホームページ不正アクセス事件の詳細
今回の事案では、10月11日午前11時頃に「晴れの国おかやまPRサイト」が閲覧できない状態になったことから問題が発覚しました。委託先の外部事業者による調査の結果、何者かによる不正アクセスの形跡が発見されています。
被害を受けたサイト一覧
公開停止となったのは以下の8サイトです:
- 晴れの国おかやまPRサイト(公聴広報課)
- 岡山 私のみらい発見カフェ(中山間・地域振興課)
- 公共交通利用促進キャンペーン(交通政策課)
- こどもまんなかマナーアップ県民運動(子ども未来課)
- 企業版子育て支援ポータルサイト ハレまる。(子ども未来課)
- ももっこアプリ利用促進キャンペーン(子ども未来課)
- 晴れ恋 晴れ婚プロジェクト(縁むすび応援室)
- おかやま結婚応援パスポート(縁むすび応援室)
これらのサイトはすべて民間のレンタルサーバーを利用しており、同一サーバー上で管理されていたことが被害拡大の要因となりました。
なぜ継続的な攻撃を受けたのか?
今回の事案で特筆すべきは、復旧作業を行った後も継続的に改ざんが行われた点です。これは攻撃者が以下のような手法を用いていた可能性があります:
1. バックドア設置による持続的アクセス
攻撃者は初回の侵入時にバックドアを設置し、管理者が脆弱性を修正してもアクセス可能な状態を維持していた可能性があります。私が過去に対応した事案でも、同様の手法で数ヶ月間にわたって攻撃が継続されたケースがありました。
2. 複数の侵入経路の確保
レンタルサーバー上の複数のサイトが被害を受けていることから、攻撃者は一つのサイトから横展開を行い、複数の侵入経路を確保していた可能性があります。
企業が直面するWebサイト攻撃のリアル
実際に私が対応した中小企業のインシデント事例をご紹介します(企業名等は伏せています)。
事例1:製造業A社のケース
従業員100名程度の製造業A社では、企業サイトが改ざんされ、顧客向けページに不正なリンクが挿入されました。発見までの2週間で約500名の顧客がそのリンクをクリックし、個人情報を盗まれる被害が発生。復旧費用だけで200万円、信頼回復のための対策費用を含めると総額500万円を超える損害となりました。
事例2:地方自治体関連組織B団体のケース
今回の岡山県と同様に、複数のサイトを運営していたB団体では、一つのサイトへの攻撃から始まり、最終的に7つのサイトが被害を受けました。完全復旧まで3ヶ月を要し、その間の業務停止による損失は計り知れないものでした。
効果的なWebサイトセキュリティ対策
1. 基本的なセキュリティ対策の徹底
多くの企業で見落とされがちですが、以下の基本対策は必須です:
- CMS(WordPress等)の定期アップデート
- プラグインの最新化と不要なプラグインの削除
- 強固なパスワード設定と二要素認証の導入
- 管理者アカウントの最小権限化
2. Webサイト脆弱性診断サービス の活用
自社だけでは発見が困難な脆弱性を定期的にチェックすることで、攻撃者に狙われる前に対策を講じることができます。特に複数のサイトを運営している企業や組織では、専門的な診断サービスの活用が重要です。
3. 包括的なセキュリティソリューションの導入
エンドポイント保護
サイト管理を行うPCには、高性能なアンチウイルスソフト
の導入が必要です。マルウェアに感染したPCからサイトにアクセスすることで、認証情報が盗まれるリスクがあります。
通信の暗号化
公衆Wi-Fiや外部ネットワークからサイト管理を行う場合は、VPN
を使用して通信を暗号化することで、認証情報の盗聴を防ぐことができます。
インシデント発生時の対応プロセス
万が一、不正アクセスが発生した場合の対応手順をまとめました:
初動対応(発覚後24時間以内)
- 被害範囲の特定と証拠保全
- 攻撃の継続を防ぐための緊急措置
- 関係者への報告と情報共有
- 外部専門業者への連絡
復旧作業
- バックドアの完全削除
- 脆弱性の修正
- システムの再構築(必要に応じて)
- セキュリティ対策の強化
予防こそ最大の対策
今回の岡山県の事例のように、一度攻撃を受けると完全復旧まで時間がかかり、その間の業務影響は計り知れません。私が担当した案件でも、「もっと早く対策をしておけば…」という声を数多く聞いてきました。
特に中小企業や地方自治体では、限られたIT予算の中で効率的にセキュリティ対策を行う必要があります。そのためには、基本的な対策の徹底と、専門的なサービスの活用のバランスが重要です。
まとめ:今すぐできる対策から始めよう
Webサイトのセキュリティ対策は、規模の大小に関わらずすべての組織にとって重要な課題です。今回の岡山県の事例を教訓として、以下の対策を今すぐ実行することをお勧めします:
- 現在運営しているすべてのサイトの棚卸し
- 各サイトのCMSやプラグインの最新化
- 管理者アカウントのセキュリティ強化
- 定期的な脆弱性診断の実施
- インシデント対応計画の策定
サイバー攻撃は「いつか起こるかもしれない」ものではなく、「いつか必ず起こる」ものとして対策を講じることが重要です。予防に投資することで、将来の大きな損失を防ぐことができます。