国家間サイバー攻撃の新たな一章 – 中国が米政府を名指しで非難
2025年10月19日、中国政府から衝撃的な発表がありました。同国の標準時間の算出・管理を担う重要インフラである中国科学院国家授時センターに対して、米政府がサイバー攻撃を実施したという「確たる証拠」を入手したというのです。
この発表は、国家レベルでのサイバー戦争の実態を改めて浮き彫りにしました。現役のCSIRT(Computer Security Incident Response Team)メンバーとして、この事件から私たちが学ぶべき教訓と、個人・企業が取るべき対策について詳しく解説していきます。
国家授時センターが狙われた理由とその深刻さ
中国科学院国家授時センターは、単なる時刻管理施設ではありません。この施設が提供する標準時間は以下の重要なシステムに影響を与えます:
- 金融取引システム
- 通信ネットワーク
- 交通制御システム
- 電力網の同期
- 軍事・防衛システム
時刻同期の狂いは、これらすべてのシステムに連鎖的な障害を引き起こす可能性があります。過去の事例を見ると、わずか数秒の時刻ずれが金融市場で数兆円規模の損失を生んだケースもあります。
国家レベルのサイバー攻撃の特徴
今回のような国家が関与するとされるサイバー攻撃(APT攻撃)には、一般的に以下のような特徴があります:
1. 高度な技術力と豊富な資源
国家レベルの攻撃者は、一般のサイバー犯罪者とは比較にならない技術力と資金力を持っています。ゼロデイ攻撃や、市場で数百万円する攻撃ツールを平然と使用します。
2. 長期間にわたる潜伏
数カ月から数年間、システム内に潜伏し続けます。私が対応したあるケースでは、初期侵入から発見まで3年以上かかりました。
3. 多段階攻撃の巧妙さ
単一の攻撃手法に依存せず、複数の手法を組み合わせて攻撃を実行します。例えば:
- スピアフィッシングメールで初期侵入
- 横展開で権限昇格
- 重要データの窃取
- 痕跡の隠蔽
個人・中小企業への影響と対策
「国家間のサイバー攻撃なんて自分には関係ない」と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。
サプライチェーン攻撃のリスク
大手企業や政府機関への攻撃の踏み台として、セキュリティの甘い中小企業が狙われるケースが急増しています。実際に私が調査したケースでは、地方の小さなIT企業経由で大手メーカーのシステムが侵害されていました。
個人情報の価値
国家レベルの攻撃者にとって、個人の情報も価値があります。特に:
- 政府関係者の家族
- 重要インフラ企業の従業員
- 研究者や技術者
これらの方々は、直接的な標的になる可能性があります。
今すぐ実施すべきセキュリティ対策
個人向け対策
1. 信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入
国家レベルの攻撃者が使用するマルウェアは非常に高度ですが、基本的なアンチウイルスソフト
でも多くの攻撃を防ぐことができます。特に、ヒューリスティック検知機能が強化された製品を選ぶことが重要です。
2. VPN
の常時使用
通信の暗号化は、攻撃者による通信傍受を困難にします。特に公衆WiFiを使用する際は、VPN
は必須です。
3. 多要素認証の徹底
パスワードだけでなく、SMSやアプリベースの多要素認証を全てのアカウントで有効にしましょう。
企業向け対策
1. Webサイト脆弱性診断サービス
の定期実施
自社のWebサイトやシステムの脆弱性を定期的にチェックすることで、攻撃者の侵入経路を事前に塞ぐことができます。
2. インシデントレスポンス体制の構築
攻撃を受けた際の対応手順を明確にし、定期的に訓練を実施することが重要です。
3. ログ監視の強化
異常な通信やアクセスパターンを早期に発見するため、包括的なログ監視体制を構築しましょう。
フォレンジック調査から見えた教訓
私がこれまで対応した国家レベル攻撃の調査事例から、以下の教訓を得ています:
ケース1: 製造業A社の事例
従業員300名の製造業で、設計図面が窃取された事件です。調査の結果、初期侵入は経理部門の女性職員への標的型メールでした。攻撃者は6ヶ月間潜伏し、最終的に技術部門のサーバーにアクセスしていました。
この事例から学んだのは、「攻撃の起点と最終目標が全く異なる部門になることがある」ということです。
ケース2: 地方自治体B市の事例
市民の個人情報約5万件が窃取された事件です。攻撃者は市の関連企業のシステム経由で侵入していました。直接的な攻撃ではなく、サプライチェーン攻撃の典型例でした。
今後の展望と継続的な対策の重要性
今回の中国による発表は、国家間のサイバー攻撃が公然化していることを示しています。この傾向は今後も続くと予想され、私たち一人一人がサイバーセキュリティに対する意識を高める必要があります。
重要なのは、「完璧なセキュリティは存在しない」という前提のもと、多層防御と早期検知・対応体制を構築することです。特に個人ユーザーにおいては、基本的なセキュリティ対策を怠らないことが何よりも重要です。
国家レベルの脅威は確実に身近になっています。今こそ、適切なセキュリティ対策を講じる時です。

