フィッシング対策協議会の最新報告によると、2025年9月にフィッシング詐欺に悪用されたブランド数が過去最多の111に達しました。これまでの常連だった証券会社に代わり、JAバンクや国勢調査など、私たちの身近な組織まで標的となっています。
現役のCSIRTメンバーとして多くのフィッシング事案を分析してきた経験から、この急激な変化は非常に危険な兆候だと考えています。攻撃者が従来の手法から脱却し、より巧妙で予測困難な方法を使い始めているのです。
フィッシング詐欺の現状:数字が物語る深刻さ
2025年9月の報告データを見ると、その深刻さがよく分かります:
- 報告件数:22万4693件(3月の過去最高24万9936件以降、20万件前後で高止まり)
- 悪用ブランド数:111(過去最多を記録)
- 特徴的な変化:証券会社から他業種へのシフト
私がフォレンジック調査で関わった中小企業の事例でも、従業員がJAバンクを騙ったフィッシングメールに騙され、個人情報を入力してしまったケースがありました。幸い早期発見できましたが、一歩間違えば大きな被害につながっていたでしょう。
新たな脅威:JAバンクを狙った巧妙な手口
特に注目すべきは、JAバンクを装ったフィッシング攻撃の急増です。報告によると、わずか10日間で4通ものフィッシングメールが確認されており、これはAmazonやAppleといった常連ブランドに匹敵する頻度です。
JAバンク詐欺の特徴
- 差出人:「JAセキュリティシステム」を名乗る
- 内容:個人情報や取引目的の再確認を要求
- 巧妙な点:実際のシステム更改時期と重複させている
この手口の恐ろしさは、実際のJAバンクのシステム更改案内と時期を合わせていることです。利用者にとって「それっぽい理由付け」に見えるため、騙されやすくなっています。
国勢調査まで悪用される時代
さらに驚くべきことに、国勢調査のインターネット回答システムまで悪用されています。政府機関を装った詐欺は、信頼度が高いため特に危険です。
私が調査した事例では、個人事業主の方が国勢調査を装ったメールから偽サイトにアクセスし、事業に関する機密情報を入力してしまったケースがありました。幸い金銭的被害は最小限でしたが、事業継続に関わる重要データが漏洩する可能性がありました。
なぜブランド数が急増しているのか
フォレンジック分析の観点から、ブランド数急増の背景を考察すると:
1. 従来手法への対策強化
銀行や大手ECサイトへの対策が強化されたため、攻撃者は新たなターゲットを探している
2. 攻撃コストの低下
フィッシングキットの汎用化により、新しいブランドを標的にするコストが下がっている
3. 検知回避戦略
多様なブランドを使うことで、セキュリティシステムの検知を回避しやすくなっている
現役CSIRTが教える効果的な対策方法
多くのフィッシング事案を調査してきた経験から、本当に効果的な対策をお伝えします。
個人向け対策
1. 包括的なセキュリティ対策
まず基本となるのが、信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入です。最新のフィッシング検知機能を持つソフトウェアは、新しい手口にも対応できる可能性が高くなります。
2. 通信の暗号化
公共Wi-Fiでの作業が多い方は、VPN
の利用を強く推奨します。フィッシングサイトへのアクセス自体を防ぐ機能を持つVPNサービスもあります。
企業向け対策
1. 従業員教育の強化
- 定期的なフィッシング訓練の実施
- 最新の手口に関する情報共有
- 報告しやすい環境づくり
2. 技術的対策
Webサイトを運営している企業は、自社サイトが悪用されないようWebサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することが重要です。
被害に遭った場合の対処法
万が一フィッシング詐欺の被害に遭った場合、迅速な対応が被害拡大を防ぎます:
- 即座にパスワード変更:入力した全てのアカウントのパスワードを変更
- 金融機関への連絡:銀行やクレジットカード会社への緊急連絡
- 証拠保全:メールやサイトのスクリーンショットを保存
- 専門機関への報告:フィッシング対策協議会や警察への報告
今後の展望と注意点
攻撃者の手口は今後も巧妙化し続けるでしょう。特に注意すべき点は:
- 季節的なイベント:税務署、年金機構など時期に応じた標的
- 地域密着型サービス:地方銀行、信用金庫などの悪用拡大
- AI技術の悪用:より自然な文面や音声を使った攻撃
私が関わった最近の事例でも、地域の信用金庫を装った極めて巧妙なフィッシングメールが確認されています。文面の自然さや、実際の業務フローを知っているかのような内容に驚かされました。
まとめ:多層防御で身を守る
フィッシング詐欺の脅威は確実に拡大し、手口も巧妙化しています。しかし、適切な対策を講じれば十分に防ぐことが可能です。
重要なのは、技術的な対策と人的な対策を組み合わせた多層防御です。アンチウイルスソフト
やVPN
などのツールを活用しながら、常に最新の脅威情報にアンテナを張り続けることが大切です。
企業の方は、従業員教育と並行してWebサイト脆弱性診断サービス
を実施し、攻撃者に悪用される隙を与えないよう注意してください。
サイバー攻撃は「もし起きたら」ではなく「いつ起きるか」の問題です。今すぐできる対策から始めて、大切な情報と財産を守りましょう。