学校を狙うランサムウェア攻撃が深刻化
2025年10月20日、京都市の東山中学・高等学校がランサムウェア攻撃の被害に遭い、職員約100台のパソコンが使用不能になる事態が発生しました。この攻撃により個人情報漏えいの可能性も浮上し、教育機関におけるサイバーセキュリティの脆弱性があらためて浮き彫りになっています。
現役のCSIRTメンバーとして数多くのランサムウェア事案を調査してきた経験から言えば、教育機関は特に狙われやすい標的となっているのが現状です。なぜなら、セキュリティ予算が限られている一方で、生徒や保護者の個人情報、成績データなど価値の高い情報を大量に保有しているからです。
東山中高で何が起こったのか
今回の攻撃では、以下のような被害が確認されています:
- 職員約100台のパソコンが起動・操作不能
- 各種事務手続きに遅れが発生
- 個人情報漏えいの可能性
- 学校の情報システムへの不正アクセス
幸い授業は通常通り実施されているものの、事務業務への影響は深刻です。学校側は迅速にネットワークを遮断し、京都府警サイバー対策本部に通報するなど適切な初動対応を行いました。
教育機関が狙われる理由とは
フォレンジック調査の現場で見てきた教育機関の特徴として、以下の点が攻撃者に狙われる要因となっています:
1. セキュリティ投資の不足
多くの学校では限られた予算の中でITセキュリティに十分な投資ができていません。古いOSやアンチウイルスソフト
の未導入端末が多数存在するケースが散見されます。
2. 豊富な個人情報
生徒・保護者の氏名、住所、電話番号、成績データなど、攻撃者にとって価値の高い情報が集約されています。
3. セキュリティ意識の格差
教職員間でのセキュリティ意識にばらつきがあり、不審なメールを開いてしまうなどの人的要因による感染が多発しています。
ランサムウェア攻撃の一般的な流れ
今回の事案の詳細は調査中ですが、典型的なランサムウェア攻撃は以下のような流れで進行します:
初期感染
- フィッシングメールの添付ファイル開封
- 不正サイトからのマルウェアダウンロード
- USBメモリなど外部記録媒体からの感染
- リモートアクセス機能の悪用
システム内での拡散
攻撃者は最初に感染した端末から、ネットワーク内の他のシステムへ横展開を図ります。特に管理者権限を取得できれば、短時間で広範囲への感染が可能になります。
データの暗号化と身代金要求
重要なファイルを暗号化し、復号化と引き換えに身代金を要求します。同時に盗み出したデータを公開するという二重脅迫を行うケースも増えています。
被害を最小限に抑えるための対策
今回のような事態を避けるため、教育機関が取るべき対策を実務経験に基づいてご紹介します:
1. 包括的なセキュリティソフトの導入
アンチウイルスソフト
は基本中の基本です。特に教育機関では多数の端末を管理する必要があるため、集中管理機能を持つ企業向けソリューションの検討をお勧めします。
2. ネットワークセグメント化
事務システムと教育システムを分離し、被害の拡大を防ぐ設計が重要です。
3. 定期的なバックアップと復旧テスト
データのバックアップは必須ですが、復旧テストも定期的に実施し、いざという時に確実に復旧できることを確認しておきましょう。
4. 職員向けセキュリティ教育
技術的対策だけでなく、人的要因による感染を防ぐための継続的な教育が不可欠です。
個人情報保護の観点から見た課題
今回の事案では個人情報漏えいの可能性が指摘されています。教育機関が保有する個人情報は特に機微性が高く、以下のような情報が含まれます:
- 生徒・保護者の基本情報
- 成績・評価データ
- 健康情報
- 家庭環境に関する情報
- 進路指導関連情報
これらの情報が流出した場合、被害者は生徒・保護者だけでなく、その家族にまで及ぶ可能性があります。
中小企業・個人でも他人事ではない
「学校の話だから関係ない」と思われるかもしれませんが、ランサムウェア攻撃は規模の大小を問わず発生しています。
実際に調査した事例では、従業員10名以下の小さな会社でも数百万円の身代金を要求されたケースがありました。個人のパソコンでも家族の写真や重要書類が暗号化され、復旧に数十万円を要求される事例も増えています。
個人・中小企業向けの現実的な対策
- アンチウイルスソフト
の導入:個人向けでも十分な機能を持つ製品が多数あります - VPN
の活用:公衆Wi-Fi利用時のセキュリティ強化に有効 - 定期的なデータバックアップ:クラウドサービスや外付けHDDの活用
- OSやソフトウェアの更新:セキュリティパッチの適用は必須
まとめ:教育現場から学ぶサイバーセキュリティの重要性
京都東山中高の事例は、どんな組織でもランサムウェア攻撃の標的になり得ることを示しています。特に重要なのは、技術的対策と人的対策の両面からアプローチすることです。
企業であればWebサイト脆弱性診断サービス
を活用して脆弱性を事前に発見し、個人であれば信頼性の高いアンチウイルスソフト
とVPN
でリスクを軽減する。これらの対策は決して過剰ではなく、現代社会を生き抜くための必須の投資と考えるべきでしょう。
今回の事案が教育現場だけでなく、すべての組織・個人にとってサイバーセキュリティ対策を見直すきっかけになることを願います。

