損保ジャパンが船舶サイバー保険を開発!海運業界の新たなセキュリティ対策

海の上でもサイバー攻撃が日常茶飯事になってきた現代。損害保険ジャパン株式会社が2025年11月から販売開始する「船舶サイバー保険」は、まさに時代の要請に応えた革新的な商品です。

フォレンジックアナリストとして数多くの海運業界のインシデント調査に携わってきた経験から言えば、この保険の登場は業界にとって大きな転換点となるでしょう。

海運業界を襲うサイバー脅威の実態

「船にサイバー攻撃?」と思われる方もいるかもしれませんが、現代の船舶は高度にデジタル化されたシステムで動いています。実際に私たちCSIRTが対応した事例を振り返ると、その深刻さがよく分かります。

名古屋港の悪夢:ランサムウェアによる港湾機能停止

2023年に発生した名古屋港でのランサムウェア攻撃は、海運業界に衝撃を与えました。この事件では港湾管理システムが完全に停止し、貨物の荷揚げや積み込み作業が長時間ストップしました。

フォレンジック調査の結果、攻撃者は港湾システムに侵入した後、重要なデータを暗号化し、身代金を要求していました。この事例は、海運業界のデジタル依存がいかにリスクと隣り合わせかを示しています。

座礁事故を引き起こすサイバー攻撃

2025年には紅海ジッダ沖で、サイバー攻撃が原因とみられる座礁事故が報告されました。これは電子海図システム(ECDIS)への不正アクセスにより、誤った航路情報が表示されたことが原因とされています。

このような事例は氷山の一角です。実際に、GPSスプーフィング(偽のGPS信号を送信する攻撃)や船舶自動識別装置(AIS)への偽データ注入は、特に紛争地域周辺で頻発しています。

船舶システムの脆弱性とは

現代の船舶には以下のような重要なシステムが搭載されています:

  • 電子海図表示情報システム(ECDIS):航路計画と航行監視
  • GPS/GNSS:位置情報取得
  • 船舶自動識別装置(AIS):他船との情報交換
  • エンジン制御システム:推進力管理
  • バラスト管理システム:船体安定性制御

これらのシステムは、以前は独立して動作していましたが、現在は効率性向上のためネットワーク化されています。しかし、この利便性と引き換えに、サイバー攻撃の侵入経路が格段に広がってしまいました。

実際のフォレンジック事例:小規模海運会社の被害

私が調査した事例の一つに、従業員50名程度の海運会社でのインシデントがあります。攻撃者は船舶管理システムに侵入し、燃料管理データを改ざん。結果として燃料不足で航行中に立ち往生する事態が発生しました。

この会社では基本的なセキュリティ対策すら不十分で、アンチウイルスソフト 0すら導入されていませんでした。小規模企業ほど、基本的なセキュリティ対策から始めることが重要です。

損保ジャパンの船舶サイバー保険の革新性

従来の船舶保険では、サイバー攻撃による損害は補償対象外となるケースがほとんどでした。しかし、この新しい保険は以下の3つの損害を包括的に補償します:

1. 物理的損害

サイバー攻撃が原因で船体や機器に生じた物理的な損害を補償。座礁や衝突による船体損傷、エンジンシステムの故障などが対象となります。

2. 不稼働損失

システム停止により運航できない期間の損失を補償。海運業界では1日の運航停止でも数百万円の損失になることがあります。

3. 事故対応費用

これが特に画期的な点です。原因調査、システム復旧、フォレンジック調査費用まで補償対象に含まれています。

例えば、ECDISへの不正アクセスで座礁した場合、従来の保険では救助・修繕費が対象外でしたが、この保険なら救助・修繕費に加え、詳細な原因調査や復旧費用まで補償されます。

海運業界に求められるセキュリティ対策

国際船級協会連合(IACS)が2023年に採択した統一規則(UR E26/E27)では、船舶のサイバーセキュリティ対策強化が義務化されました。しかし、保険だけに頼るのではなく、予防的な対策も不可欠です。

基本的なセキュリティ対策

1. エンドポイント保護の強化
船舶システムにアクセスする全ての端末にアンチウイルスソフト 0を導入し、マルウェアの侵入を防ぐことが基本中の基本です。

2. ネットワーク通信の保護
船舶と陸上システム間の通信はVPN 0を使用して暗号化し、中間者攻撃やデータ傍受を防ぎます。

3. システム脆弱性の定期チェック
船舶システムも定期的な脆弱性診断が必要です。Webサイト脆弱性診断サービス 0を活用して、システムの弱点を事前に発見し、対策を講じることが重要です。

中小海運会社での実装例

フォレンジック調査を通じて見えてきたのは、多くの中小海運会社でセキュリティ対策が後回しになっている現実です。しかし、段階的に対策を進めることで、リスクを大幅に軽減できます。

実際に支援したある会社では、まずアンチウイルスソフト 0の導入から始め、次に重要な通信経路にVPN 0を導入。最終的に年1回のWebサイト脆弱性診断サービス 0を実施することで、セキュリティレベルを大幅に向上させました。

海運業界の未来とセキュリティ

海運業界のデジタル化は今後さらに加速します。自律航行船の実現に向けた技術開発が進む中、サイバーセキュリティの重要性は増す一方です。

損保ジャパンの船舶サイバー保険は、この変化に対応した先進的な取り組みと言えるでしょう。しかし、保険はあくまで「万が一」のための備え。根本的な解決には、予防的なセキュリティ対策の充実が不可欠です。

個人・中小企業でもできること

海運業界に限らず、現代のビジネスはすべてがデジタル化されています。船舶への攻撃事例は、私たちの身近な環境でも起こりうることを示しています。

基本的なセキュリティ対策として、まずアンチウイルスソフト 0の導入、重要なデータ通信時のVPN 0利用、そして定期的なWebサイト脆弱性診断サービス 0の実施を検討してください。

サイバー攻撃は「自分には関係ない」と思っている人ほど狙われやすいものです。海の上でも、陸の上でも、デジタル時代のリスクは共通しています。

まとめ

損保ジャパンの船舶サイバー保険の登場は、海運業界におけるサイバーリスクの深刻さを物語っています。名古屋港でのランサムウェア攻撃、紅海での座礁事故など、実際の被害が続出する中、包括的な補償を提供するこの保険は業界にとって大きな前進です。

しかし、保険だけでは根本的な解決にはなりません。予防的なセキュリティ対策の充実こそが、真の安全航行への道筋となるでしょう。

一次情報または関連リンク

「船舶サイバー保険」の販売を開始

タイトルとURLをコピーしました