アフラックのサイバー攻撃事件から見える医療・保険業界のリスク
2025年6月、がん保険・医療保険大手のアフラックが米国でサイバー攻撃を受け、個人情報漏洩の可能性があることを発表しました。この事件は、医療・保険業界がサイバー犯罪者にとって格好のターゲットになっていることを改めて浮き彫りにしています。
アフラックの発表によると、12日に不正アクセスを検知し、数時間以内に侵入を阻止したものの、顧客や従業員の社会保障番号、医療情報、保険請求情報などの機密データが漏洩した可能性があるとのことです。
なぜ医療・保険業界が狙われるのか
フォレンジック調査の現場で数多くの事案を扱ってきた経験から言えば、医療・保険業界がサイバー攻撃の標的になる理由は明確です:
- 高価値データの宝庫:個人の健康情報、金融情報、社会保障番号など、闇市場で高値で取引されるデータが集中している
- レガシーシステムの脆弱性:古いシステムが残っており、最新のセキュリティ対策が不十分な場合が多い
- 業務の性質上、ダウンタイムが許されない:人命に関わるため、身代金要求に応じやすい
実際、2024年2月にはユナイテッドヘルス・グループ傘下のチェンジ・ヘルスケアが攻撃を受け、約1億9000万人分の個人情報が漏洩し、約2200万ドルの身代金が支払われたとされています。
サイバー攻撃の手口と実際の被害事例
ランサムウェア攻撃の典型的な流れ
CSIRT(Computer Security Incident Response Team)の立場から見ると、医療・保険業界への攻撃は以下のようなパターンが多く見られます:
- 初期侵入:フィッシングメールやVPN脆弱性を悪用した不正アクセス
- 権限昇格:システム内で管理者権限を取得
- 横移動:ネットワーク内の他のシステムへ感染拡大
- データ窃取:機密データを外部サーバーへ送信
- ランサムウェア展開:システムを暗号化し、身代金を要求
中小クリニックでの実際の被害事例
先日対応したケースでは、従業員20名程度の歯科クリニックが標的型攻撃を受けました。攻撃者は以下の手順で侵入しました:
- 受付スタッフ宛の偽装メールから添付ファイルを開かせ、マルウェアに感染
- 電子カルテシステムへアクセスし、患者データ約3000件を窃取
- システム全体をランサムウェアで暗号化し、復旧に300万円の身代金を要求
幸いこのクリニックでは定期的なバックアップを取っていたため、身代金は支払わずに済みましたが、システム復旧に2週間、患者への対応や信頼回復に数ヶ月を要しました。
個人でできるサイバーセキュリティ対策
基本的な防御策
企業レベルの攻撃であっても、個人の端末が侵入口となるケースが多々あります。以下の対策は必須です:
1. 包括的なウイルス対策
アンチウイルスソフト
の導入は最も基本的かつ重要な対策です。特に医療・保険関連の仕事に従事している方は、業務用PCにも必ず導入してください。
2. 安全なネットワーク接続
テレワークや外出先からの業務アクセスが増えている現在、VPN
の使用は必須です。公共Wi-Fiを使用する際のデータ暗号化だけでなく、IP偽装による匿名性確保も重要です。
フォレンジック専門家が推奨する追加対策
- 定期的なパスワード変更:90日ごとの更新を推奨
- 二段階認証の有効化:すべてのオンラインアカウントで設定
- ソフトウェアの定期更新:自動更新を有効にする
- 不審なメールへの警戒:添付ファイルやリンクを安易にクリックしない
今後の展望と対策の重要性
サイバー攻撃の手口は日々巧妙化しており、特に医療・保険業界への攻撃は今後も増加が予想されます。アフラックのような大手企業でさえ被害を受ける現状を考えると、個人レベルでの対策がいかに重要かがわかります。
最新のアンチウイルスソフト
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を組み合わせることで、多層防御を構築し、自分の大切な情報を守りましょう。セキュリティは「完璧」ではなく「継続」が重要です。
サイバーセキュリティは個人の問題でもあり、社会全体の問題でもあります。一人ひとりが適切な対策を講じることで、より安全なデジタル社会の構築に貢献できるのです。