2025年10月25日、大阪府羽曳野警察署の警部補・草川亮央容疑者(56)が、府警OBで行政書士の道沢正克容疑者(68)に依頼されて捜査上知り得た第三者の口座情報などを漏洩した疑いで逮捕される事件が発生しました。特に注目すべきは、草川容疑者が「数年前から情報を伝えていた」と供述している点で、これは組織にとって最も深刻な脅威である「内部脅威」の典型例と言えるでしょう。
内部脅威とは何か?組織が直面する最大のリスク
内部脅威(Insider Threat)とは、組織内部の関係者が意図的または非意図的に機密情報を外部に漏洩したり、システムに損害を与えたりする行為のことです。今回の事件では、警察官という立場を悪用して長期間にわたって個人情報が外部に流出していました。
フォレンジックアナリストとして数多くの情報漏洩事件を調査してきた経験から言えることは、外部からのサイバー攻撃よりも内部脅威の方が発見が困難で、被害が深刻になりやすいということです。なぜなら、内部関係者は正当なアクセス権限を持っているため、異常な動作として検知されにくいからです。
なぜ内部脅威は見つけにくいのか?
今回の事件でも数年間発覚しなかった理由を考えてみましょう:
- 正当なアクセス権限:警察官として正規の業務でデータベースにアクセスする権限を持っていた
- 通常業務との区別が困難:業務上必要な情報アクセスなのか、不正な目的なのかの判断が困難
- 信頼関係:組織内の人間に対しては疑いの目を向けにくい心理的な障壁
- 監視体制の不備:内部関係者の行動を継続的に監視するシステムの不足
個人が取るべき情報漏洩対策
このような内部脅威による情報漏洩から身を守るために、個人レベルでできる対策があります:
1. デジタル足跡の管理
あなたの個人情報がどこでどのように使われているか把握していますか?金融機関、通販サイト、各種サービスなど、様々な場所にあなたの情報が保存されています。定期的に利用していないサービスは解約し、不要な個人情報の保存を最小限に抑えましょう。
2. 強固なセキュリティ環境の構築
自宅のネットワーク環境から情報が漏洩するリスクもあります。アンチウイルスソフト
を導入することで、マルウェアやフィッシング攻撃から身を守ることができます。特に、パソコンやスマートフォンに保存している個人情報が第三者に渡ることを防ぐために、リアルタイム保護機能は必須です。
3. 通信の暗号化
公共Wi-Fiや怪しいネットワークを使用する際は、VPN
を利用して通信内容を暗号化しましょう。特に金融取引やオンラインショッピングを行う際は、通信内容が傍受されるリスクを最小限に抑えることが重要です。
中小企業が直面する内部脅威リスクと対策
実際のフォレンジック調査事例では、中小企業における内部脅威による情報漏洩が年々増加しています。ある製造業の事例では、退職予定の営業担当者が顧客リストを競合他社に持ち出し、数千万円の損害が発生しました。
効果的な内部脅威対策
- アクセス権限の最小化:従業員には業務上必要最小限の情報にのみアクセス権を付与
- ログの監視と分析:システムアクセスログを定期的に確認し、異常な動作を検知
- 定期的な教育研修:情報セキュリティの重要性を従業員に継続的に教育
- 退職時の手続き強化:退職者のアクセス権限を即座に無効化する仕組み
Webサイトを運営する企業の追加対策
自社でWebサイトを運営している企業は、内部脅威に加えて外部からの攻撃リスクも考慮する必要があります。Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、システムの脆弱性を事前に発見し、攻撃者に悪用される前に対策を講じることができます。
特に、従業員が管理画面にアクセスするWebアプリケーションでは、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなどの脆弱性が存在すると、内部関係者でなくても機密情報にアクセスできてしまう可能性があります。
今回の事件から学ぶべき教訓
大阪府警の事件は、どんなに信頼できる組織でも内部脅威のリスクは存在することを示しています。数年間にわたって発覚しなかったという事実は、従来の監視体制では内部脅威を防ぐことの難しさを物語っています。
現役CSIRTメンバーとしての経験から言えることは、内部脅威対策は「人を疑う」ことではなく、「システムとプロセスで組織を守る」ことだということです。適切な監視システムと明確なルールがあることで、悪意のある行為を抑制し、万が一の際も早期発見につなげることができます。
まとめ:総合的なセキュリティ対策の重要性
今回の事件は、個人情報保護の重要性と、組織における内部脅威対策の必要性を改めて浮き彫りにしました。個人レベルでも企業レベルでも、多層防御のアプローチでセキュリティ対策を講じることが不可欠です。
デジタル社会において、完璧なセキュリティは存在しません。しかし、適切な対策を講じることで、リスクを大幅に軽減することは可能です。今回の事件を他人事と思わず、自分や自社のセキュリティ対策を見直すきっかけとしていただければと思います。

