アサヒグループを襲ったサイバー攻撃の全貌
アサヒグループ食品が10月13日、約2週間にわたって続いていたサイバー攻撃によるシステム障害から復旧したというニュースが大きな話題となっています。
フォレンジックアナリストとして数多くの企業サイバー攻撃事案を分析してきた経験から言えることは、今回のアサヒグループの対応は極めて適切だったということです。被害拡大を防ぐために迅速にネットワークを遮断し、段階的な復旧を行った判断は、多くの企業が学ぶべき模範的な対応でした。
攻撃の詳細と影響範囲
今回の攻撃により影響を受けたのは以下の業務でした:
- 顧客係における電話、FAX、郵送による受注業務
- 配送変更、解約手続きの対応
- 問い合わせ対応およびメール送受信
- 「カルピス健康通販」「アサヒの健康通販」のサービス
興味深いことに、ECサイトからの注文受付や定期購入顧客への商品発送は継続されていました。これは、システムの分離が適切に行われていた証拠であり、事業継続計画(BCP)の重要性を示しています。
個人・中小企業が直面するサイバー攻撃の現実
私がこれまで対応してきたフォレンジック事例を振り返ると、個人や中小企業も決して安全ではないことが分かります。
実際のフォレンジック事例:中小製造業A社のケース
従業員30名の製造業A社では、営業担当者が受信した請求書を装ったメールから、ランサムウェアに感染しました。攻撃者は以下の手順で侵入:
- 請求書を装ったメールの添付ファイル(.pdf.exe)を開封
- バックドアが設置され、内部システムに長期潜伏
- 管理者権限を取得後、全社のファイルサーバーを暗号化
- 身代金要求:500万円相当のビットコイン
この事例では、復旧に3週間、直接的な損失だけで800万円の被害となりました。
個人を狙った最新の手口
最近の個人向け攻撃で特に増加しているのが、以下のようなケースです:
- 偽のセキュリティ警告画面からの誘導
- SNSの乗っ取りによる詐欺
- オンラインバンキングの認証情報窃取
- 暗号通貨ウォレットの不正アクセス
今すぐ実装すべきセキュリティ対策
アサヒグループのような大企業でも被害を受ける現在、個人や中小企業はより一層の対策が必要です。
基本的なセキュリティ対策
1. アンチウイルスソフト
の導入
最新の脅威に対応したアンチウイルスソフト
は必須です。特に、リアルタイム保護機能とWebサイト安全性チェック機能が重要になります。
2. VPN
の活用
公衆Wi-Fi利用時や機密情報を扱う際は、VPN
で通信を暗号化することが重要です。特に在宅勤務が増加している現在、家庭のインターネット環境のセキュリティ強化は必須です。
企業向けの高度な対策
3. Webサイト脆弱性診断サービス
の定期実施
自社のWebサイトやWebアプリケーションの脆弱性を定期的にチェックするWebサイト脆弱性診断サービス
は、攻撃を事前に防ぐ有効な手段です。
組織的な対策
- 定期的なセキュリティ教育の実施
- インシデント対応計画の策定
- データのバックアップとリストア手順の確立
- ネットワークセグメンテーションの実装
サイバー攻撃を受けた場合の対応手順
万が一、サイバー攻撃を受けた場合の対応手順をフォレンジックアナリストの視点から解説します。
初動対応(最初の30分が勝負)
- 感染端末のネットワークからの隔離
- 影響範囲の特定
- 関係者への連絡
- 証拠保全の開始
中期対応(24時間以内)
- 専門機関への報告(警察、JPCERT/CC等)
- 顧客・取引先への影響調査
- メディア対応の検討
- 復旧計画の策定
まとめ:プロアクティブなセキュリティ対策を
アサヒグループの事例は、どんなに大きな企業でもサイバー攻撃の標的になり得ることを示しています。しかし、適切な対策を講じることで被害を最小限に抑えることは可能です。
重要なのは、攻撃を受けてから対策を考えるのではなく、事前に予防策を講じることです。特に個人や中小企業の場合、一度の攻撃で事業継続が困難になるケースも少なくありません。
今回紹介した対策を参考に、自分や自社のセキュリティレベルを見直し、必要な投資を行うことをお勧めします。セキュリティ投資は「コスト」ではなく「保険」だと考えることが重要です。

