深刻化するサイバーセキュリティ人材不足の現実
韓国のセキュリティ専門企業ティオリが2025年10月28日に発表したAIハッカーソリューション「ZINT(ジント)」が、業界で大きな注目を集めています。同社のパク・セジュン代表が指摘した「韓国企業の97%がセキュリティ人材不足に悩んでいる」という数字は、決して韓国だけの問題ではありません。
日本でも同様の状況が深刻化しており、経済産業省の調査によると、国内のサイバーセキュリティ人材は約20万人不足しているとされています。一方で、サイバー攻撃は年々巧妙化し、企業が守るべきデジタル資産は爆発的に増加しています。
私がCSIRTで対応してきた事例でも、人材不足により初動対応が遅れ、被害が拡大するケースを数多く見てきました。特に中小企業では、専門知識を持った担当者がおらず、攻撃を受けても適切な対応ができずに甚大な被害を被るケースが後を絶ちません。
AIが変えるサイバーセキュリティの未来
今回ティオリが発表した「ZINT」は、この人材不足問題に対するひとつの解決策として注目されています。最も興味深いのは、世界最高水準のホワイトハッカーの知見をAIに学習させているという点です。
従来の脆弱性診断ツールとの大きな違いは以下の通りです:
- 実践的な攻撃シナリオ:公開された脆弱性データベースだけでなく、実際のハッキング手法を基にした診断
- 防御システム迂回手法の理解:単純なスキャンではなく、実際の攻撃者の思考プロセスを再現
- 使いやすいSaaS形式:専門知識がなくても、WebサイトのURLをコピーするだけで診断可能
実際の脅威に対する具体的な対策
フォレンジック分析の現場で感じるのは、多くの企業が「自分たちは狙われない」という思い込みを持っていることです。しかし、実際には規模に関係なく、あらゆる企業がサイバー攻撃の標的となっています。
例えば、私が対応した中小製造業の事例では、Webサイトの脆弱性を悪用された結果、顧客データベースが漏洩し、数千万円の損害賠償と信用失墜という深刻な事態に陥りました。このようなケースでは、事前の脆弱性診断があれば防げた可能性が高いのです。
ZINTのような診断ツールの価値
パク代表によると、ZINTの性能は「世界最高水準のホワイトハッカーと比べると30〜40%程度だが、一般的な模擬ハッキング水準ではジュニアテスター以上の能力」とのことです。これは非常に現実的で価値のある数字だと感じます。
なぜなら、多くの企業、特に中小企業では、そもそも専門のセキュリティテスターを雇う予算がないからです。そんな企業にとって、ジュニアレベル以上の診断を自動化できるツールは革命的と言えるでしょう。
個人・企業が今すぐできるセキュリティ対策
ZINTのようなAIツールは確かに画期的ですが、現在利用できる対策も重要です。特に個人や中小企業の方には、以下の段階的な対策をおすすめします:
1. 基本的な保護の徹底
まずはアンチウイルスソフト
で、マルウェアやフィッシング攻撃から身を守ることが重要です。最新の脅威に対応できる製品を選ぶことで、多くの攻撃を未然に防げます。
2. 通信経路の保護
リモートワークが増えた現在、VPN
の利用は必須となっています。特に公衆Wi-Fiを使用する際は、暗号化された通信で情報漏洩を防ぎましょう。
3. Webサイトの脆弱性対策
自社のWebサイトを運営している企業には、Webサイト脆弱性診断サービス
の定期的な実施をおすすめします。ZINTのような革新的なツールが登場する一方で、現在利用可能なサービスでも十分な効果が期待できます。
サイバーセキュリティの新時代への備え
ティオリのZINTのような AI主導のセキュリティソリューションは、業界の将来を示す重要な指標です。今後は人間とAIが協力してサイバー脅威に対抗する時代になるでしょう。
しかし、どれだけAI技術が進歩しても、基本的なセキュリティ意識と対策は欠かせません。むしろ、AIツールを効果的に活用するためには、基礎的なセキュリティ知識がより重要になってくるのです。
現在の急速な技術革新を考えると、企業も個人も「待ち」の姿勢ではなく、今できる対策を着実に実行していくことが重要です。ZINTのような革新的なツールが一般化するまでの間も、現在利用可能な最高のソリューションを活用して、自分自身と組織を守り続けましょう。

