急激に増加するサイバー攻撃の現実
今年に入って、ソウル市へのサイバー攻撃が年間800万件近くに達したという衝撃的なニュースが報告されました。これは前年の679万件、前々年の683万件と比較しても明らかな増加傾向です。
フォレンジック調査の現場で日々見ている立場から言えば、この数字は決して他人事ではありません。実際、日本の自治体でも似たような攻撃が増えているんです。
攻撃の内訳から見える脅威の変化
特に注目すべきは、攻撃の内容が従来の単純なスキャンから、具体的な意図を持った高度な攻撃へと変化していることです:
- 情報収集:403万件(前年比+67%)
- 情報流出試行:約40万件(+45%)
- 不正な権限取得:約123万件
- ウェブページ改ざん:約43万件
- 不正アクセス試行:約17万件(+289%)
- DDoS攻撃:約112万件
- マルウェア:約58万件(+25%)
この数字を見ると、攻撃者たちがより組織化され、戦略的になってきていることがよく分かります。
なぜソウル市は被害ゼロを達成できたのか?
驚くべきことに、これだけの攻撃を受けながらも、ソウル市では実際の被害は過去3年間でゼロを記録しています。その秘訣はどこにあるのでしょうか?
AIベースのセキュリティ監視体制
ソウル市が導入したAIベースのセキュリティ監視システムは、まさに現代のサイバー脅威に対抗する切り札と言えるでしょう。
従来の静的なセキュリティ対策とは異なり、AIによる監視は:
– 24時間365日のリアルタイム監視
– パターン学習による未知の脅威検知
– 自動的な脅威分析と対応
これらの機能により、人間では見逃してしまうような微細な異常も検知できるようになったのです。
専門組織「情報保安課」の新設
2024年に新設された「情報保安課」も、この成功に大きく貢献しています。専門的な知識を持つ人材を集約することで、より効果的な対策が可能になりました。
日本の自治体や企業が学ぶべき教訓
ソウル市の事例から、日本の組織が学ぶべきポイントがいくつかあります。
多層防御の重要性
実際のフォレンジック調査でも感じることですが、単一の対策だけでは限界があります。ソウル市のように、複数の防御策を組み合わせることが重要です:
- 技術的対策(アンチウイルスソフト
、ファイアウォール等) - 組織的対策(専門部署の設置、人材育成)
- 運用的対策(定期的な監視、インシデント対応)
中小企業でも実践できる対策
「うちは小さな会社だから大丈夫」と思っていませんか?実は、中小企業こそ狙われやすいのが現実です。
私が調査した事例でも、従業員50人程度の会社が標的型攻撃を受け、顧客データが流出したケースがありました。攻撃者は大企業よりもセキュリティが手薄な中小企業を足がかりに、最終的には大企業を狙うことが多いんです。
個人ユーザーも無関係ではない理由
「自治体の話だから関係ない」と思うかもしれませんが、実は個人ユーザーも無関係ではありません。
テレワークが生む新たなリスク
コロナ禍以降、テレワークが一般化しましたが、これにより家庭のネットワークが攻撃の入り口になるリスクが高まっています。
実際に調査した事例では:
– 従業員の自宅PCがマルウェアに感染
– VPN
を使わずに会社のシステムにアクセス
– 結果として会社全体のネットワークが侵害
このような流れで被害が拡大したケースを何度も見てきました。
効果的な個人レベルでの対策
では、個人レベルでできる対策は何でしょうか?
1. 信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入
最新の脅威に対応できるセキュリティソフトは必須です。特に、リアルタイム保護機能があるものを選びましょう。
2. VPN
の活用
特にテレワーク時や公共Wi-Fi利用時には、通信の暗号化が重要になります。
3. 定期的なシステム更新
OSやソフトウェアの更新は、セキュリティホールを塞ぐ重要な対策です。
企業向け:より高度な対策が必要な理由
個人よりも多くのデータを扱う企業には、より高度な対策が求められます。
Webサイトの脆弱性対策
ソウル市の事例でも、Webページの改ざん攻撃が43万件報告されています。企業のWebサイトも同様のリスクに晒されているのです。
私が関わった事例では、ECサイトの脆弱性を突かれ、顧客のクレジットカード情報が漏洩したケースもありました。この時の損失は:
– 直接的な損害賠償:約5,000万円
– 信用失墜による売上減少:約2億円
– システム復旧費用:約1,000万円
合計で3億円近い損失となり、会社の存続すら危ぶまれました。
Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施していれば、このような被害は防げたはずです。
内部不正への対策も必要
外部からの攻撃ばかりに注目しがちですが、内部の人間による不正も深刻な問題です。
統計によると、情報漏洩の約30%は内部犯行が原因とされています。ソウル市のような多層防御システムには、こうした内部脅威への対策も含まれているのです。
今後予想されるサイバー脅威の進化
ソウル市の事例を分析すると、今後のサイバー脅威がどのように進化していくかが見えてきます。
AI vs AIの時代
ソウル市がAIで防御しているように、攻撃者側もAIを活用した攻撃を仕掛けてくるでしょう。これは:
– より巧妙なフィッシングメールの自動生成
– 人間では判別困難なディープフェイク技術の悪用
– システムの脆弱性を自動で発見・攻撃するAIツール
このような新たな脅威に対応するには、常に最新のセキュリティ対策を維持することが重要です。
サプライチェーン攻撃の増加
直接的な攻撃が困難になると、攻撃者は関連会社や取引先を経由した間接的な攻撃を試みます。
実際に私が調査した事例でも、大手企業への攻撃が失敗した後、その下請け会社を経由して最終的に目標を達成したケースがありました。
実践的な対策の始め方
では、具体的にどこから始めればよいでしょうか?
個人ユーザーの場合
1. 現在のセキュリティ状況を確認
まずは現在使用しているアンチウイルスソフト
が最新版かどうか確認しましょう。
2. VPN
の導入検討
テレワークや外出先でのインターネット利用が多い方は、特に重要です。
3. パスワード管理の強化
複雑なパスワードを使い回さないことが基本です。
企業の場合
1. 現状のリスク評価
まずはWebサイト脆弱性診断サービス
を実施して、現在の脆弱性を把握することから始めましょう。
2. 従業員教育の実施
技術的対策だけでなく、人的対策も重要です。
3. インシデント対応計画の策定
万が一の場合に備えた対応計画を事前に準備しておきましょう。
まとめ:継続的なセキュリティ意識が鍵
ソウル市の事例が示すように、現代のサイバー脅威は確実に進化・増加しています。しかし同時に、適切な対策を講じることで被害を防ぐことは十分可能だということも証明されました。
重要なのは、「一度対策すれば終わり」ではなく、継続的にセキュリティレベルを向上させ続ける姿勢です。
個人でも企業でも、今日からできることから始めてみませんか?小さな一歩が、将来の大きな被害を防ぐことになるかもしれません。

