2025年11月、工作機械大手のオークマ株式会社から気になるニュースが飛び込んできました。同社のドイツ子会社でランサムウェア感染が発生したものの、迅速な対応により被害を最小限に抑えたという報告です。
私はこれまで数多くのランサムウェア事件の調査に携わってきましたが、この事例は中小企業の皆さんにとって非常に参考になる教訓が詰まっていると感じています。今回は、この事件から読み取れるサイバーセキュリティ対策の要点を、現場目線で解説していきます。
オークマ子会社で発生したランサムウェア事件の概要
まず、事件の詳細を整理してみましょう。2025年9月20日(土曜日)、オークマの連結子会社であるドイツ法人Okuma Europe GmbH(OEG社)のサーバーに対して不正アクセスが発生し、サーバー上のファイルが暗号化されました。
この事件で注目すべきは、オークマ側の迅速で適切な対応です:
- 発覚直後に現地警察など関係機関への相談を実施
- 外部専門家の支援を受けたインシデント対応チームを即座に設立
- 感染範囲・原因の調査と復旧作業を並行して実施
- 従業員等の個人情報や機密情報の漏えいは確認されず
- 取引先・顧客への影響も回避
結果として、操業停止などの重大な事業中断は避けられ、2025年度の連結業績への影響も軽微に留められました。
なぜ被害を最小限に抑えることができたのか?
私がこれまで調査してきた事例と比較すると、オークマのケースは「お手本」とも言える対応でした。多くの企業がランサムウェア攻撃で大きな被害を受ける中、なぜこれほど迅速に復旧できたのでしょうか。
1. 平時からの準備が功を奏した
まず考えられるのは、平時からのセキュリティ対策とインシデント対応計画の存在です。土曜日という休日に発生した攻撃にも関わらず、即座に適切な対応を取れたということは、事前に明確な対応手順が定められていたと推測されます。
2. 外部専門家との連携体制
「外部専門家の支援を受けたインシデント対応チーム」という表現から、あらかじめフォレンジック調査会社やセキュリティ専門企業との連携体制が構築されていた可能性が高いです。
3. バックアップ戦略の成功
復旧が迅速に完了したということは、適切なバックアップシステムが機能していたと考えられます。ランサムウェア攻撃において、バックアップは文字通り「命綱」です。
中小企業が学ぶべき5つの教訓
この事例から、中小企業の皆さんが学ぶべき重要な教訓をまとめてみました。
教訓1:インシデント対応計画の策定
「もしサイバー攻撃を受けたらどうするか」を事前に計画しておくことが極めて重要です。私が調査した事例の中で、被害が拡大した企業の多くは「誰に連絡すべきか分からない」「何から手を付けていいか分からない」という状況で貴重な時間を浪費していました。
具体的には以下の項目を明確にしておきましょう:
- インシデント発生時の連絡体制
- 外部専門機関への相談手順
- システム復旧の優先順位
- 顧客・取引先への連絡方法
教訓2:定期的なバックアップの重要性
ランサムウェア対策において、バックアップは最後の砦です。しかし、単にバックアップを取っているだけでは不十分。攻撃者も学習しており、最近ではバックアップシステムまで標的にするケースが増えています。
効果的なバックアップ戦略のポイント:
- 3-2-1ルール(3つのコピー、2つの異なる媒体、1つはオフライン)
- 定期的な復旧テストの実施
- ランサムウェアに感染しても影響を受けない隔離されたバックアップ
教訓3:エンドポイント保護の徹底
多くのランサムウェア攻撃は、従業員の端末への初期侵入から始まります。アンチウイルスソフト
の導入は基本中の基本ですが、従来のパターンマッチング型では検知できない新種のマルウェアも存在します。
現在では、AI技術を活用した行動分析型のセキュリティソフトが効果的です。これらは未知のマルウェアでも、異常な動作パターンを検知して被害を防ぐことができます。
教訓4:リモートアクセスの安全化
コロナ禍以降、多くの企業がリモートワークを導入していますが、VPN接続の脆弱性を狙った攻撃が急増しています。セキュリティが甘いVPNサービスを使用していると、それ自体が攻撃の入口となってしまいます。
VPN
を選択する際は、以下の点を重視してください:
- ゼロログポリシー(接続ログを保存しない)
- 軍事グレードの暗号化
- 多要素認証(MFA)の対応
- キルスイッチ機能
教訓5:Webサイトの脆弱性対策
企業のWebサイトが攻撃の踏み台になることも珍しくありません。特にWordPressなどのCMSを使用している場合、定期的な脆弱性診断が欠かせません。
Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、攻撃者に悪用される前に脆弱性を発見・修正できます。
実際のフォレンジック調査から見えること
私がこれまで担当したランサムウェア事件の調査で分かったことは、多くの場合、攻撃は数週間から数か月前から始まっているということです。攻撃者は段階的にシステム内部に侵入し、重要なデータの場所を特定してから最終的な暗号化攻撃を仕掛けてきます。
オークマのケースでも、9月20日に発覚したということは、実際の侵入はもっと早い時期だった可能性があります。だからこそ、日頃からの監視体制や異常検知の仕組みが重要なのです。
中小企業がすぐに実践できる対策
「大企業のような予算はない」という中小企業の皆さんでも、以下の対策は比較的低コストで実現できます:
1. 従業員教育の徹底
最も効果的で低コストな対策です。フィッシングメールの見分け方、怪しいリンクをクリックしない、USB等の外部媒体の取り扱いなど、基本的なセキュリティリテラシーを向上させましょう。
2. ソフトウェアの定期更新
OS、アプリケーション、セキュリティソフトを常に最新版に保つことで、既知の脆弱性を狙った攻撃を防げます。
3. アクセス権限の最小化
従業員には業務に必要最小限のアクセス権限のみを付与し、管理者権限の乱用を避けましょう。
4. ネットワーク分離
重要なサーバーと一般的な業務用端末のネットワークを分離することで、攻撃の拡散を防げます。
まとめ:今すぐ行動を起こそう
オークマの事例は、適切な準備と迅速な対応により、ランサムウェア攻撃の被害を最小限に抑えられることを示しています。しかし、これは決して運が良かっただけではありません。平時からのセキュリティ投資と準備があったからこその結果です。
サイバー攻撃は「いつか来るかもしれない脅威」ではなく、「いつ来てもおかしくない現実の脅威」です。特に中小企業は大企業に比べてセキュリティが手薄になりがちで、攻撃者にとって「狙いやすい標的」と認識されています。
今回紹介した対策を参考に、ぜひ今すぐできることから始めてください。明日では遅いかもしれません。あなたの会社の大切な資産と従業員、そして顧客を守るために、今日から行動を起こしましょう。

