著名人も狙われるYouTubeアカウント乗っ取り事件が発生
2025年11月10日、韓国のモデル出身タレント、ハン・ヘジンさんのYouTubeチャンネルがハッキングされ、本人の意図に反して仮想通貨XRPに関する偽のライブ配信が行われる事件が発生しました。
この事件では、攻撃者が乗っ取ったアカウントを利用して「エックスアールピー(XRP):ブラッド・ガーリングハウスCEOの成長予測」というタイトルでライブ配信を実施。多くの視聴者が騙される可能性のある状況でした。
ハン・ヘジンさんは自身のInstagramで被害を報告し、「私やチャンネル制作スタッフの意図とは無関係」であることを強調。YouTube側への異議申し立てと復旧作業を進めていることを明かしています。
YouTubeアカウント乗っ取りの典型的な手口とは
現役のCSIRTメンバーとして数多くのアカウント乗っ取り事件を分析してきた経験から、YouTubeチャンネルが狙われる主な手口をご紹介します。
1. フィッシングメールによる認証情報詐取
最も一般的なのが、YouTube運営を装ったフィッシングメールです。「チャンネルに問題が発生しました」「収益化に関する重要な通知」などの件名で、偽のログインページに誘導してIDとパスワードを盗み取ります。
2. マルウェア感染によるセッション情報の窃取
悪意のあるソフトウェアをダウンロードさせ、ブラウザに保存されたログイン情報やセッションクッキーを盗み出す手法も頻発しています。
3. 弱いパスワードへのブルートフォース攻撃
簡単なパスワードを設定しているアカウントに対して、自動化ツールを使った総当たり攻撃が行われるケースも多く見られます。
個人クリエイターが狙われる理由
なぜ個人のYouTubeチャンネルが標的になるのでしょうか。フォレンジック調査の現場で見えてきた攻撃者の狙いを分析してみます。
仮想通貨詐欺の踏み台として利用
今回のハン・ヘジン事件のように、乗っ取ったアカウントで仮想通貨関連の偽情報を配信し、視聴者から金銭を騙し取る手法が急増しています。登録者数の多いチャンネルほど、詐欺の効果が高いため標的になりやすいのです。
チャンネル売買による金銭獲得
乗っ取ったアカウントをそのまま第三者に販売するケースも確認されています。特に収益化されているチャンネルは高値で取引されているのが実情です。
企業への攻撃の入り口
個人クリエイターが企業とコラボレーションしている場合、そのアカウントを踏み台にして企業システムへの侵入を試みるケースもあります。
実際に起きたYouTubeアカウント乗っ取り被害事例
私がフォレンジック調査で関わった実際の事例をいくつかご紹介します(個人情報は伏せています)。
事例1:中小企業の公式チャンネル乗っ取り
ある製造業の会社では、マーケティング担当者のPCがマルウェアに感染し、YouTubeアカウントの認証情報が盗まれました。攻撃者は企業の信頼性を利用して投資詐欺の動画を配信し、多数の被害者を生み出しました。
事例2:教育系YouTuberの収益化アカウント転売
登録者数50万人の教育系チャンネルが乗っ取られ、アダルトコンテンツ配信業者に売却されるという事件もありました。長年築き上げたブランドイメージが一夜にして崩壊してしまいました。
これらの事例から分かるのは、一度アカウントを乗っ取られると、個人だけでなく視聴者や関連企業にまで被害が拡大するということです。
YouTubeアカウントを守るための具体的な対策
現役CSIRTの立場から、効果的なアカウント保護策をお伝えします。
基本的なセキュリティ対策
1. 強固なパスワードの設定
最低12文字以上で、英数字と記号を組み合わせた複雑なパスワードを設定してください。誕生日や名前などの個人情報は絶対に使わないことが重要です。
2. 二段階認証の有効化
GoogleアカウントとYouTubeの二段階認証は必須です。SMSよりも認証アプリ(Google AuthenticatorやAuthy)の使用をお勧めします。
3. アンチウイルスソフト
の導入
PCやモバイルデバイスにアンチウイルスソフト
をインストールして、マルウェア感染のリスクを最小限に抑えましょう。特にフィッシングサイトの検出機能が充実している製品を選ぶことが大切です。
高度なセキュリティ対策
4. VPN
の活用
公共Wi-Fiや信頼性の低いネットワークからYouTubeにアクセスする際は、必ずVPN
を使用してください。通信の暗号化により、認証情報の盗聴を防げます。
5. 定期的なアクセス履歴のチェック
Googleアカウントの「セキュリティ」ページで、不審なログイン履歴がないか月1回は確認しましょう。見覚えのないアクセスがある場合は、すぐにパスワードを変更してください。
6. バックアップアカウントの準備
メインアカウントが乗っ取られた場合に備えて、別のGoogleアカウントをチャンネルの管理者として追加しておくことをお勧めします。
被害に遭ってしまった場合の対処法
万が一アカウントが乗っ取られてしまった場合の対応手順をご説明します。
緊急対応(発覚から24時間以内)
1. すぐにパスワードを変更する
2. 二段階認証を有効にする(まだの場合)
3. YouTube/Googleサポートに被害報告
4. SNSで被害を公表し、視聴者への注意喚起
復旧作業
1. 不審な動画の削除申請
2. チャンネル設定の確認と修正
3. 被害の詳細な記録と報告書作成
4. 関係者への謝罪と説明
ハン・ヘジンさんのように迅速に対応し、透明性を持って被害を公表することが、信頼回復への第一歩となります。
企業アカウントの場合の追加対策
企業が運営するYouTubeチャンネルの場合、より厳格なセキュリティ対策が必要です。
アクセス権限の最小化
チャンネル管理に関わる人数を最小限に絞り、それぞれに適切な権限レベルを設定してください。
定期的なセキュリティ監査
企業のWebサイトと同様に、YouTubeアカウントも定期的なセキュリティチェックが重要です。特にWebサイト脆弱性診断サービス
を利用することで、関連するWebサービスの脆弱性も含めて総合的なセキュリティ評価ができます。
従業員教育の実施
フィッシング攻撃やマルウェア感染のリスクについて、定期的な教育プログラムを実施しましょう。
2025年以降のYouTubeセキュリティトレンド
サイバー攻撃の手法は年々巧妙化しており、2025年に入ってからも新たな脅威が確認されています。
AIを利用した高度なフィッシング攻撃
ChatGPTなどのAI技術を悪用して、より精巧な偽メールや偽サイトが作成されるようになっています。従来の方法では見分けが困難なレベルに達しており、注意が必要です。
ソーシャルエンジニアリングの巧妙化
攻撃者はSNSの投稿内容を分析し、個人の興味関心に合わせたカスタマイズされた攻撃を仕掛けてきます。
こうした進化する脅威に対抗するためには、基本的なセキュリティ対策に加えて、常に最新の情報をキャッチアップし続けることが重要です。
まとめ:継続的なセキュリティ意識が鍵
ハン・ヘジンさんのYouTubeチャンネル乗っ取り事件は、誰もが被害者になり得ることを改めて示しています。個人クリエイターから企業まで、すべてのYouTubeアカウント運営者にとって他人事ではありません。
現役CSIRTとしての経験から言えることは、完璧なセキュリティ対策は存在しないということです。しかし、基本的な対策を確実に実施し、継続的にセキュリティ意識を保つことで、リスクを大幅に軽減できます。
特に重要なのは以下の3点です:
1. アンチウイルスソフト
による基本的な保護
2. VPN
を利用した安全な通信
3. 企業の場合はWebサイト脆弱性診断サービス
による総合的なセキュリティチェック
大切なのは「自分は大丈夫」という油断を捨て、常に最新の脅威に対応できる体制を整えておくことです。

