2025年10月24日、黒金化成株式会社がサーバへの不正アクセスによる情報漏えいの可能性を発表しました。同社では10月16日に一部サーバへの不正アクセスを検知し、外部専門家と連携した調査を開始しています。
現役フォレンジックアナリストとして数多くのインシデント対応に携わってきた経験から言えば、このような事案は決して他人事ではありません。特に中小企業においては、十分なセキュリティ体制が整っていないケースが多く、黒金化成のような事態は明日にでも起こりうる問題です。
黒金化成の不正アクセス事件の概要
今回の事件では、以下のような経緯で被害が発覚しました:
- 10月16日:一部サーバへの不正アクセスの可能性を検知
- 直ちに外部専門家の協力のもと調査を開始
- 10月24日:情報漏えいの可能性を含む事案として公表
- 現時点で影響範囲は特定できていない状況
幸い生産活動には支障が出ていないとのことですが、情報流出の可能性が示唆されている点は深刻です。フォレンジック調査の現場では、このような「影響範囲が不明」な状態が最も厄介で、調査に時間を要するケースが少なくありません。
企業のサーバが狙われる理由と攻撃手法
近年、企業のサーバを標的とした攻撃が急増しています。私が対応した事例では、以下のような攻撃パターンが頻繁に見られます:
1. 脆弱性を狙った攻撃
古いソフトウェアやパッチが適用されていないサーバは格好の標的となります。特にWebサーバや管理システムの脆弱性は、攻撃者にとって侵入の糸口となりやすいのが現状です。
2. 認証情報の漏洩・悪用
フィッシングメールや他のサイトからの認証情報流出により、正規のアカウントが悪用されるケースも多発しています。特にVPN接続やリモートデスクトップの認証情報が狙われる傾向があります。
3. 内部関係者による不正アクセス
意外と見落とされがちですが、内部関係者や元従業員による不正アクセスも深刻な問題です。権限管理が適切に行われていない企業では、このリスクが特に高まります。
中小企業が直面するセキュリティの現実
私がCSIRTとして対応した事例の多くは、実は中小企業でのインシデントです。大企業と比べて予算や人材が限られている中小企業では、以下のような課題が顕著に現れます:
- セキュリティ専門人材の不足
- 古いシステムやソフトウェアの継続使用
- バックアップ体制の不備
- 従業員のセキュリティ意識不足
ある製造業のクライアントでは、10年以上更新されていないサーバが攻撃を受け、過去5年分の顧客データが流出するという深刻な事態に発展しました。復旧に3ヶ月、損害額は数千万円に及んだケースもあります。
今すぐ実施すべき対策
黒金化成の事例を踏まえ、企業が今すぐ実施すべき対策をご紹介します:
1. セキュリティソフトの導入・更新
まず基本中の基本として、すべてのサーバとクライアント端末にアンチウイルスソフト
の導入は必須です。特にビジネス向けの製品では、サーバ監視機能や不正アクセス検知機能が充実しており、早期発見に役立ちます。
2. ネットワークセキュリティの強化
リモートワークが一般化した現在、VPN
の導入も重要な対策の一つです。特に従業員が社外から社内システムにアクセスする際のセキュリティ確保には不可欠です。
3. 定期的な脆弱性診断
Webサイトやサーバの脆弱性を定期的にチェックすることで、攻撃者に狙われる前に問題を発見・修正できます。Webサイト脆弱性診断サービス
を活用することで、専門知識がなくても効果的な診断が可能です。
インシデント発生時の初動対応
万が一、不正アクセスを検知した場合の初動対応も重要です。私の経験では、以下の手順を踏むことで被害を最小限に抑えられます:
- 影響を受けたシステムの隔離
- 証跡の保全(ログファイル等の確保)
- 外部専門家への相談
- 関係機関への報告
- 関係者への情報共有
黒金化成の対応を見る限り、検知から8日後の公表という迅速な対応は評価できます。隠蔽せずに適切に情報開示することで、二次被害の防止と信頼回復につながる可能性が高まります。
まとめ:継続的なセキュリティ対策が企業を守る
今回の黒金化成の事例は、どの企業にも起こりうる身近な脅威であることを改めて示しています。完璧なセキュリティは存在しませんが、適切な対策を継続的に実施することで、リスクを大幅に軽減できます。
特に中小企業の経営者の皆様には、「うちは狙われるような会社じゃない」という楽観的な考えを改め、今すぐ具体的な対策を始めることをお勧めします。月数千円の投資で、数千万円の損失を防げる可能性が高いのです。

