国立国会図書館で発生した深刻なサイバーセキュリティ事件
2025年11月11日、国立国会図書館がシステム開発委託業者への不正アクセスにより、利用者情報が漏洩した可能性があると発表しました。この事件は、現代のデジタル社会における「サプライチェーン攻撃」の典型例として、私たち個人や企業にとって重要な教訓を含んでいます。
事件の詳細と発覚の経緯
今回の事件では、国立国会図書館が直接攻撃されたのではなく、館内システムの開発を委託された外部業者のシステムが狙われました。11月5日に業者が「サーバーが応答していない」状況を発見したことで事態が明らかになっています。
漏洩した可能性がある情報には以下が含まれます:
- 利用者の氏名
- 印刷資料の申し込み情報
- 利用者ID
幸い、住所や電話番号は含まれていないとのことですが、これらの情報でも悪用されるリスクは十分にあります。
サプライチェーン攻撃の恐ろしさ
フォレンジック調査の現場で数多くの事件を見てきた経験から言えば、この種の「サプライチェーン攻撃」は近年最も深刻化している脅威の一つです。
なぜ委託業者が狙われるのか
攻撃者が委託業者を狙う理由は明確です:
- 大企業よりもセキュリティが甘い場合が多い
- 複数の顧客データにアクセスできる可能性がある
- 信頼関係を利用した侵入経路として活用できる
実際、私が関わった企業フォレンジック事例でも、初期侵入は決まって「信頼できる取引先」からのメールや、「開発パートナー」のシステム経由でした。
個人が今すぐ取るべき対策
1. 自分の情報がどこにあるか把握する
今回のような事件に巻き込まれないためには、まず自分の個人情報がどこで管理されているかを把握することが重要です。特に:
- 図書館やレンタルサービスの利用履歴
- オンラインショッピングの購入履歴
- 各種会員サービスの登録情報
これらの情報は、思わぬ形で第三者の業者に渡っている可能性があります。
2. アンチウイルスソフト でデバイス保護を強化
個人レベルでできる最も基本的で効果的な対策は、デバイスのセキュリティ強化です。特に:
- リアルタイム保護機能でマルウェア感染を防ぐ
- フィッシングサイトへのアクセスをブロック
- 個人情報の不正送信を監視
3. オンライン活動の匿名性を高める
VPN
を活用することで、インターネット上での活動を暗号化し、個人情報の露出リスクを大幅に削減できます。特に公共Wi-Fiを使用する際は必須と考えてください。
中小企業が直面するサプライチェーンリスク
委託先管理の盲点
私が過去に調査した中小企業のインシデント事例では、以下のような委託先管理の問題が頻繁に見られました:
事例1:Web制作会社経由の情報漏洩
ある小売業では、ECサイトの制作を委託したWeb制作会社のサーバーがハッキングされ、顧客の購入履歴や個人情報が流出しました。制作会社のセキュリティ対策が不十分だったことが原因でした。
事例2:会計ソフト業者の不正アクセス
地方の製造業では、クラウド会計システムを提供していた業者への不正アクセスにより、取引先情報や財務データが漏洩。復旧に6ヶ月を要し、取引先からの信頼回復に2年かかりました。
企業が取るべき対策
1. 委託先のセキュリティ監査
委託契約を結ぶ前に、相手方のセキュリティ体制を必ず確認しましょう:
- セキュリティポリシーの有無
- 定期的な脆弱性診断の実施状況
- インシデント対応体制
- データ保護に関する具体的な技術的措置
2. Webサイト脆弱性診断サービス で自社システムを定期診断
委託先のセキュリティだけでなく、自社のWebサイトやシステムも定期的な脆弱性診断が必要です。特に:
- 外部公開しているWebサイトの脆弱性チェック
- データベースのアクセス権限設定確認
- ネットワーク構成の安全性評価
インシデント発生時の初動対応
フォレンジック調査の重要性
今回の国立国会図書館の事例でも、「サーバーが応答していない」という症状から不正アクセスが発覚しました。これは典型的な発見パターンです。
もし類似の症状が発生した場合:
- 証拠保全を最優先:システムを安易に再起動せず、現状を保持
- 影響範囲の特定:どのデータにアクセスされた可能性があるか調査
- 関係者への迅速な通知:顧客や取引先への早期連絡
被害拡大を防ぐ緊急対応
実際のインシデント対応では、以下の手順が重要です:
- 不審なアクセスログの保全
- 侵入経路の特定と遮断
- 漏洩した可能性のあるデータの範囲確定
- 法的要件に基づく報告と公表
今後のサイバーセキュリティ対策の方向性
ゼロトラストアプローチの導入
今回のような委託業者経由の攻撃を防ぐには、「内部だから安全」という前提を捨て、すべてのアクセスを検証する「ゼロトラスト」の考え方が重要です。
継続的な監視体制の構築
「サーバーが応答していない」という状況が発生する前に、異常を検知できる監視システムの導入が必要です。特に:
- 異常なネットワークトラフィックの検知
- 権限外アクセスのリアルタイム監視
- データ持ち出しの自動検知
まとめ:今すぐ始められる対策から
国立国会図書館の事件は、どんな組織でも起こりうるサイバーセキュリティの現実を示しています。完璧な防御は存在しませんが、適切な対策により被害を最小限に抑えることは可能です。
個人であればアンチウイルスソフト
とVPN
の導入から、企業であれば委託先管理の見直しとWebサイト脆弱性診断サービス
から始めることをお勧めします。
サイバーセキュリティは「コスト」ではなく「投資」です。今回のような事件が自分や自社に起こる前に、できる対策から始めていきましょう。
一次情報または関連リンク
国立国会図書館、不正アクセスを公表・謝罪 外部委託の開発中システム 一部利用者情報など漏えい可能性 – Yahoo!ニュース

