警視庁内部から暴力団への情報漏洩事件が発覚
2025年11月13日、衝撃的なニュースが報じられました。警視庁暴力団対策課の警部補、神保大輔容疑者(43)が、国内最大級のスカウトグループ「ナチュラル」に捜査情報を漏らした容疑で逮捕されたのです。さらに驚くべきことに、容疑者の自宅からは現金900万円が押収されており、情報の対価として金銭を受け取っていた可能性が高いことが判明しています。
この事件は、単なる守秘義務違反を超えた深刻な「内部脅威」の事例として、あらゆる組織にとって重要な教訓を示しています。
事件の詳細と手口の巧妙さ
報道によると、神保容疑者は2025年4月下旬から5月上旬にかけて、計2回にわたって機密情報を漏洩したとされています。その手口は現代的で巧妙でした。
使用された情報漏洩の手段
容疑者は「ナチュラル独自のアプリ」を使用して、グループの関係先が捜査用カメラにどう映っているかがわかる画像を送信していました。これは従来の電話やメールといった一般的な通信手段ではなく、暴力団組織が独自に開発した専用アプリケーションを使用していた点で、非常に計画的で組織的な情報漏洩であったことを示しています。
現役フォレンジックアナリストが見る事件の深刻度
私がこれまで手がけた数々のセキュリティインシデント調査の中でも、内部脅威ほど発見が困難で、かつ甚大な被害をもたらすケースはありません。今回の警視庁の事件は、その典型例と言えるでしょう。
内部脅威が特に危険な理由
正当なアクセス権限の悪用
神保容疑者は暴力団対策課に所属しており、捜査情報にアクセスする正当な権限を持っていました。これにより、通常のセキュリティシステムでは検知が困難な状況が生まれていたのです。
長期間の潜伏活動
報道では2023年頃から関与が疑われており、長期間にわたって情報漏洩が継続していた可能性があります。これは内部脅威の典型的なパターンで、外部からの攻撃と比べて発覚が遅れがちです。
一般企業でも起こりうる内部脅威のリスク
この事件は警察組織の話ですが、同様のリスクはあらゆる組織に存在します。私が過去に調査した中小企業の事例を紹介しましょう。
実際にあった企業内部からの情報漏洩事例
事例1:システム管理者による顧客情報売却
ある製造業の中小企業で、システム管理者が顧客データベースから個人情報約3万件を抽出し、名簿業者に売却していた事件がありました。発覚までに8ヶ月を要し、企業は損害賠償と信用失墜で廃業に追い込まれました。
事例2:営業担当による競合他社への機密情報提供
IT企業の営業担当者が、転職を有利に進めるため、自社の開発中製品情報や顧客リストを競合他社に提供していた事案もありました。幸い早期発見できましたが、新製品の市場投入戦略の見直しを余儀なくされました。
内部脅威から組織を守るための対策
フォレンジック調査の現場で培った経験から、効果的な内部脅威対策をご紹介します。
技術的対策
アクセスログの継続監視
すべてのシステムアクセスを記録し、異常なパターンを検知する仕組みが必要です。特に業務時間外のアクセスや、通常業務では必要のない情報への アクセスには注意が必要です。
データ流出防止(DLP)システムの導入
機密情報の社外への送信を監視・制御するシステムの導入が有効です。VPN
などのセキュアな通信環境の整備も重要な要素となります。
運用面での対策
職務分離の徹底
一人の従業員が機密情報の全てにアクセスできる状況を避け、必要最小限の権限付与を原則とします。
定期的なセキュリティ教育
従業員に対する継続的な情報セキュリティ教育により、内部脅威のリスクと対策について意識を高めることが重要です。
個人レベルでできる情報セキュリティ対策
組織レベルの対策と並行して、個人レベルでも情報セキュリティ意識を高めることが大切です。
個人が心がけるべきポイント
SNSでの情報公開に注意
職場や業務に関する情報を不用意にSNSに投稿することで、意図せず機密情報を漏洩してしまう可能性があります。
パスワード管理の徹底
業務システムのパスワードを使い回したり、推測しやすいものに設定することで、不正アクセスのリスクが高まります。
セキュリティソフトの活用
個人端末においてもアンチウイルスソフト
を導入し、マルウェア感染による情報漏洩を防ぐことが重要です。
今後の展開と教訓
今回の警視庁の事件は、どんなに厳格な組織であっても内部脅威のリスクは存在することを改めて示しました。特に現金900万円という大金が自宅から発見されたことは、情報の金銭価値の高さと、内部者の動機が単純な金銭欲である場合の危険性を物語っています。
組織として学ぶべき教訓
完璧なシステムは存在しない
技術的対策だけでは内部脅威を完全に防ぐことは不可能です。人的要素を含めた多層防御が必要です。
早期発見の重要性
内部脅威は発見が遅れるほど被害が拡大します。異常を検知する仕組みと、報告しやすい組織文化の構築が重要です。
継続的な見直し
セキュリティ対策は一度構築すれば終わりではありません。定期的な見直しと改善が必要です。
この事件を教訓として、すべての組織が内部脅威対策を見直し、より強固な情報セキュリティ体制を構築することが求められています。特に機密性の高い情報を扱う組織では、技術的対策と人的対策の両面から包括的なアプローチを取ることが不可欠です。

