警視庁内部からの重大な情報漏洩事件が発生
2024年11月12日、警視庁で衝撃的な内部犯行事件が発覚しました。暴力団対策課の神保大輔警部補(43)が、国内最大級のスカウトグループ「ナチュラル」に対して捜査情報を漏洩したとして、地方公務員法違反(守秘義務)容疑で逮捕されたのです。
この事件は、組織内部の人間による情報漏洩、いわゆる「インサイダー脅威」の典型的な事例として、企業や団体にとって重要な教訓を含んでいます。
事件の概要と手口
報道によると、神保容疑者は特殊アプリを使用して捜査用カメラ画像をスカウトグループ側に提供していたとされています。これは単なる情報の口頭伝達ではなく、デジタル機器を活用した組織的な情報漏洩行為だったことを示しています。
警視庁幹部が「同僚や組織に対する裏切り行為そのものだ」と怒りを表明したように、この種の内部脅威は組織にとって最も深刻なセキュリティリスクの一つです。
企業が直面する内部脅威の実態
現役のCSIRTメンバーとして多くのインシデント対応に携わってきた経験から言えば、内部脅威による情報漏洩は外部からのサイバー攻撃よりも発見が困難で、被害も甚大になりがちです。
中小企業で実際に起きた内部脅威事例
私が対応した事例の中には、以下のようなケースがありました:
- 退職予定の営業担当者による顧客情報持ち出し:USBメモリを使用して5,000件の顧客データを持ち出し、転職先で使用。損害額は数千万円に及びました
- システム管理者による機密データの不正アクセス:管理者権限を悪用して競合他社に技術情報を売却。企業の競争優位性が大きく損なわれました
- 経理担当者による財務情報の外部提供:金銭的見返りと引き換えに、未公表の決算情報を投資家グループに提供
内部脅威が生まれる背景と心理的要因
フォレンジック調査を通じて分かったことは、内部脅威を起こす人材には共通する特徴があることです。
内部犯行者の典型的な特徴
- 組織に対する不満や怒りを抱いている
- 金銭的な問題を抱えている
- 昇進や評価に不満を持っている
- 退職や転職を控えている
- 外部との不適切な関係を持っている
今回の警視庁の事件でも、神保容疑者がなぜスカウトグループと関係を持つに至ったのか、その背景には何らかの動機があったはずです。
企業が実装すべき内部脅威対策
内部脅威は完全に防ぐことは困難ですが、適切な対策により大幅にリスクを軽減することができます。
技術的対策
- アクセス権限の最小化:職務に必要最小限の権限のみを付与
- ログ監視の強化:システムアクセス、ファイル操作、データ転送の詳細ログを記録
- データ漏洩防止(DLP)システムの導入:機密情報の不正な外部送信を検知・ブロック
- 定期的なアクセス権限の見直し:人事異動や役職変更に応じた権限の適切な更新
運用・管理面での対策
- 背景調査の実施:採用時や重要なポジションへの配置時の身元確認
- 定期的な教育・研修:セキュリティ意識の向上と規程の周知徹底
- 内部通報制度の充実:匿名での報告が可能な仕組みの構築
- 退職手続きの厳格化:アクセス権限の即座な無効化とデータ返却の確認
個人向けセキュリティ対策の重要性
企業の従業員一人ひとりも、個人レベルでのセキュリティ意識を高めることが重要です。
個人のデバイスやアカウントが侵害されることで、意図せずに企業の機密情報が漏洩するケースも増えています。アンチウイルスソフト
による個人デバイスの保護や、VPN
を使用した通信の暗号化など、基本的なセキュリティ対策を怠らないことが大切です。
Web アプリケーションのセキュリティ強化
今回の事件では特殊アプリが使用されたとされていますが、企業が運用するWebアプリケーションの脆弱性も内部脅威のリスクを高める要因となります。
定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施により、システムの安全性を確保することで、内部の悪意ある行為者によるシステム悪用のリスクを軽減できます。
インシデント発生時の対応手順
内部脅威が疑われる場合の初動対応は、外部からの攻撃とは大きく異なります。
初動対応のポイント
- 証拠保全の最優先:対象者に気づかれる前にデジタル証拠を確保
- 法務・人事部門との連携:法的手続きと人事処分の検討
- 影響範囲の特定:漏洩した情報の種類と量の詳細調査
- 再発防止策の検討:同様の事件を防ぐためのシステム改善
まとめ:組織全体でのセキュリティ文化の醸成が鍵
今回の警視庁の事件は、どれほど厳格な組織であっても内部脅威のリスクは存在することを改めて示しています。
技術的な対策だけでなく、組織文化の改善、従業員の満足度向上、透明性のあるコミュニケーションなど、総合的なアプローチが求められます。
特に中小企業においては、限られたリソースの中で効果的な内部脅威対策を実装することが課題となりますが、基本的な対策から段階的に強化していくことで、大きなリスクを回避できるはずです。
内部脅威は「起こりうること」として受け入れ、それに対する準備を怠らないことが、現代の組織運営において不可欠な要素となっているのです。

