2025年11月、衝撃的なニュースが日本を駆け巡りました。警視庁の現職警察官が、組織犯罪グループに捜査情報を漏洩していたという前代未聞の事件です。
この事件は、どんなに強固なセキュリティシステムを構築しても、内部の人間が悪意を持てば簡単に情報が外部に流出してしまうという現実を突きつけています。今回は現役CSIRTメンバーとして、この事件を詳細に分析し、個人や企業が学ぶべき教訓をお伝えします。
事件の概要:警察官による前代未聞の情報漏洩
警視庁暴力団対策課の神保大輔警部補(43)が、国内最大規模の違法スカウトグループ「ナチュラル」に捜査情報を漏洩したとして逮捕されました。具体的には以下のような手口で情報を流していました:
- 漏洩された情報:監視カメラ映像を接写した画像数枚
- 漏洩期間:2025年4月下旬から5月上旬
- 漏洩手段:ナチュラルが独自開発したスマートフォンアプリ
- 動機:金品受領の疑い(自宅から現金数百万円発見)
内部不正の典型的なパターンと危険性
フォレンジック調査の現場では、このような内部不正による情報漏洩事案を数多く扱ってきました。今回の事件は、内部不正の典型的なパターンを示しています。
段階的な取り込み手法
犯罪組織は一夜にして内部の人間を取り込むわけではありません。今回のケースでも以下のような段階的なプロセスが推測されます:
- 接触段階:捜査過程での自然な接触
- 信頼関係構築:小さな便宜から始まる関係づくり
- 金銭授受開始:少額から始まる報酬の提供
- 本格的情報提供:重要情報の定期的な漏洩
企業が直面する内部不正リスク
この事件は警察という特殊な組織の話ですが、一般企業でも同様のリスクが存在します。実際に私が関わった企業の事例をいくつか紹介しましょう。
ケース1:IT企業での顧客情報漏洩
ある中小IT企業では、経理担当者が競合他社に顧客情報を売却していました。発覚のきっかけは、競合が不自然なタイミングで同社の顧客にアプローチしてきたことでした。フォレンジック調査により、社員のPCから外部への大量のデータ転送履歴が発見されました。
ケース2:製造業での技術情報流出
製造業の研究開発部門で、退職予定の技術者が海外企業に技術仕様書を送信していた事案もありました。この場合、退職の3ヶ月前から段階的にデータを持ち出しており、アンチウイルスソフト
などのセキュリティソフトでは検知できない巧妙な手口でした。
内部不正を防ぐための具体的対策
内部不正を完全に防ぐことは困難ですが、リスクを大幅に軽減することは可能です。以下の対策を段階的に実装することをお勧めします。
1. アクセス制御の徹底
今回の事件でも、神保容疑者は担当から外れた後も映像にアクセスできる状況がありました。企業では以下の対策が重要です:
- 職務に応じた最小権限の原則
- 定期的なアクセス権の見直し
- 異動・退職時の即座な権限削除
2. 監視・検知システムの導入
内部不正の兆候を早期に発見するため、以下のシステムが有効です:
- ファイルアクセスログの監視
- 異常な通信パターンの検知
- 大量データ転送のアラート
個人レベルでも、アンチウイルスソフト
を導入することで、不審な通信や外部への情報送信を検知できます。
3. 人的セキュリティ対策
技術的対策と同様に重要なのが人的対策です:
- 定期的なセキュリティ教育
- 内部通報制度の整備
- 職場環境の改善による不満の解消
個人ができるセキュリティ対策
企業に勤務する個人としても、以下の対策を心がけることが重要です。
デジタル証拠の保護
もし職場で不審な活動を発見した場合、証拠保全が重要になります。しかし、素人が証拠を扱うと、かえって証拠価値を損なう可能性があります。
個人でできる対策として、VPN
を使用してインターネット接続を暗号化し、通信内容を保護することが効果的です。特に在宅勤務時には、家庭のネットワークセキュリティが企業の情報を守る最後の砦となります。
Web会議やクラウドサービスのセキュリティ
リモートワークが普及した現在、Webサービスの脆弱性を狙った攻撃も増加しています。企業のWebサイトやクラウドサービスに脆弱性がないか、Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することも重要な対策の一つです。
今後の展望と教訓
今回の警察官による情報漏洩事件は、「内部の人間だから信頼できる」という従来の考え方の限界を示しています。組織の規模や性質に関係なく、内部不正のリスクは常に存在するのです。
重要なのは、性善説に依存せず、技術的・制度的な仕組みによってリスクをコントロールすることです。完璧なセキュリティは存在しませんが、多層防御により被害を最小限に抑えることは可能です。
個人の皆さんも、職場でのセキュリティ意識を高め、必要に応じて適切なセキュリティツールを活用することで、組織全体のセキュリティレベル向上に貢献できます。

