関通(兵庫・尼崎)が2024年9月に受けたランサムウェア攻撃は、日本企業に重大な警鐘を鳴らしました。物流・倉庫管理の大手企業が一夜にして8.4億円の純損失を計上するという、まさに「現代版の悪夢」を体験したのです。
今回は、現役のCSIRTメンバーとして多くのインシデント対応を経験してきた立場から、この事例を深く分析し、個人や中小企業が同様の被害を避けるための具体的な対策について解説していきます。
関通のランサムウェア攻撃:8.4億円の被害額が物語る現実
2024年9月12日、関通のクラウド倉庫管理システム「クラウドトーマス」を運用するサーバ群がランサムウェア攻撃を受けました。この攻撃により、約47社のECサイトで出荷停止が発生し、ガンバ大阪、大幸薬品、アスクルなど、多くの有名企業が影響を受けました。
私がこれまで対応してきた事例でも、ランサムウェア攻撃の被害額は年々増加傾向にあります。特に関通のケースで注目すべきは、迅速な初動対応を行ったにも関わらず、これだけの損失が発生したという点です。
攻撃発生から復旧までの時系列
- 9月12日:障害検知、即座にネットワーク遮断・クローズド環境構築
- 9月〜10月:詳細調査と新環境でのサービス再提供
- 10月:調査完了、「情報漏えいはなかった」と結論
- その後:決算説明会延期、株主総会関連方針の変更
フォレンジック調査で見えてきた実態
私が関わった類似事例では、ランサムウェア攻撃の多くが数週間から数ヶ月かけて企業ネットワークに潜伏し、重要なデータを特定してから実行されます。関通の事例でも、攻撃者は事前に十分な偵察を行っていたと推測されます。
特に興味深いのは、関通が「情報漏えいはなかった」と発表できた点です。これは、適切なアンチウイルスソフト
が導入されていたか、もしくは迅速なネットワーク遮断が功を奏した可能性があります。
個人・中小企業でも起こりうる被害パターン
私が過去に対応した中小企業の事例を紹介します:
事例1:製造業A社(従業員50名)
会計システムがランサムウェアに感染し、3日間の業務停止。復旧費用200万円に加え、取引先への信頼回復に半年を要しました。
事例2:小売業B社(従業員20名)
POSシステムが攻撃を受け、顧客情報300件が漏洩。個人情報保護委員会への報告義務が発生し、対応コストが膨大になりました。
関通が導入した「サイバーガバナンスラボ」の意義
関通は被害を受けた実体験を活かし、2025年6月から「サイバーガバナンスラボ」という実践型プログラムを開始しました。これは、机上の理論ではなく、実際に攻撃を受けた企業だからこそ提供できる貴重な知見です。
このプログラムの特徴は以下の通りです:
- 生々しい被害事例の共有
- 専門家によるクローズドセッション
- SlackやChatworkでのリアルタイム情報共有
- 事前・事後の包括的支援体制
- 即応可能な外部チームとの連携
個人と中小企業ができる現実的なセキュリティ対策
関通のような大企業でも8.4億円の損失を出すランサムウェア攻撃。個人や中小企業はどう対策すべきでしょうか?
1. 基本的な防御の徹底
まず最も重要なのは、信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入です。私の経験上、多くの中小企業が「コストを抑えたい」という理由で無料のセキュリティソフトを使用していますが、これは非常に危険です。
特にランサムウェア対策に特化した機能を持つアンチウイルスソフト
を選択することで、関通のような被害を大幅に軽減できる可能性があります。
2. リモートワーク環境のセキュリティ強化
コロナ禍以降、リモートワークが普及しましたが、これがセキュリティリスクを高めています。特に公衆Wi-Fiを使用する際は、必ずVPN
を使用してください。
私が調査した事例では、攻撃者がカフェの無料Wi-Fiを経由して企業ネットワークに侵入したケースもあります。VPN
は単なる「あったら良いもの」ではなく、現代のビジネスにおける必須のセキュリティツールです。
3. データバックアップの重要性
関通が比較的短期間で復旧できたのは、適切なバックアップ体制があったからです。個人事業主や中小企業でも、以下の「3-2-1ルール」を実践することをお勧めします:
- 3つのコピーを作成
- 2つの異なるメディアに保存
- 1つはオフサイト(クラウドなど)に保管
まとめ:8.4億円の教訓を活かす
関通のランサムウェア被害は、現代のサイバーセキュリティの現実を如実に示しています。大企業でも一瞬で数億円の損失を被る可能性があり、個人や中小企業にとってはより深刻な影響をもたらす可能性があります。
しかし、適切な対策を講じることで、被害を最小限に抑えることは可能です。信頼性の高いアンチウイルスソフト
とVPN
の導入、定期的なバックアップ、そして従業員教育の徹底。これらの基本的な対策が、あなたの大切なデータと事業を守る第一歩となります。
関通が実体験から生み出した「サイバーガバナンスラボ」のような取り組みは、日本全体のセキュリティレベル向上に貢献することでしょう。私たち一人ひとりが、この教訓を活かして行動することが重要です。