衝撃の内部犯行事件が発生
2025年11月12日、警視庁暴力団対策課の警部補、神保大輔容疑者(43)が地方公務員法違反容疑で逮捕されました。容疑は、国内最大級のスカウトグループ「ナチュラル」に対する捜査情報を漏洩したというものです。
この事件で特に注目すべきは、内部の人間による裏切り行為だという点です。神保容疑者は約14年間も組織犯罪の捜査に従事し、2023年頃から今春まで「ナチュラル」の捜査を担当していました。まさに捜査の中枢にいた人物が、相手側に取り込まれてしまったのです。
漏洩された情報の内容
報道によると、神保容疑者は4月下旬から5月上旬にかけて計2回、以下の情報を漏洩したとされています:
- ナチュラルのメンバーの関係先が捜査用カメラにどう映っているかの画像
- その他の捜査情報(詳細は捜査継続中のため非公開)
さらに、神保容疑者の自宅からは数百万円の現金が発見されており、金銭的な見返りがあった可能性が高いことが判明しています。
内部犯行の恐ろしさとその影響
フォレンジックアナリストとして数多くの情報漏洩事件を調査してきた経験から言えば、内部犯行は最も防ぎにくく、かつ最も深刻な被害をもたらすサイバーセキュリティ脅威の一つです。
なぜ内部犯行は発見が困難なのか
- 正規のアクセス権限を持っている
外部からの不正侵入と違い、内部犯行者は正当な権限を持ってシステムにアクセスするため、ログ上では通常の業務活動と区別がつきにくい - セキュリティ対策をすり抜ける知識がある
組織のセキュリティ体制を熟知しているため、監視の目をかいくぐる方法を知っている - 信頼関係に基づく油断
同僚や上司からの信頼があるため、疑われにくい環境にある
企業や組織が取るべき内部犯行対策
今回の事件を踏まえ、一般企業や中小企業でも実践できる内部犯行対策をご紹介します。
1. アクセス権限の厳格な管理
- 必要最小限の原則:業務に必要な最小限の権限のみを付与
- 定期的な権限見直し:人事異動や退職時の権限削除を徹底
- 職務分離:重要な業務を複数人で分担し、一人に権限を集中させない
2. ログ監視の強化
機密情報へのアクセスや重要なシステム操作は、すべてログとして記録し、定期的に監査することが重要です。特に以下の点に注意:
- 通常とは異なる時間帯のアクセス
- 大量のファイルダウンロード
- 権限外のシステムへのアクセス試行
- 外部デバイスの接続
3. 情報の分類と保護
- 情報の機密度分類:「極秘」「機密」「社外秘」「一般」などのレベル分け
- アクセス制御:分類に応じた適切なアクセス制限
- 暗号化:重要な情報は暗号化して保存
個人や中小企業でもできるセキュリティ対策
大企業のような高度なシステムがなくても、以下の対策は導入可能です:
技術的対策
- アンチウイルスソフト
の導入:マルウェアや不正なファイル転送を検知 - Webサイト脆弱性診断サービスの利用:外部からの攻撃を未然に防ぐ
- VPN
の活用:リモートワーク時の通信を保護
組織的対策
- セキュリティ教育:定期的な研修とモラル向上
- 相互監視体制:同僚同士でのチェック機能
- 内部通報制度:匿名で不正を報告できる仕組み
- 定期的な人事ローテーション:長期間同じ部署にいることによるリスクを軽減
心理的要因への対処も重要
内部犯行の多くは、以下の心理的要因が関与しています:
- 金銭的困窮
- 組織への不満や恨み
- 外部からの脅迫や誘惑
- 承認欲求の満たされなさ
これらの要因を早期発見するためには、日頃からのコミュニケーションと職場環境の改善が欠かせません。
予防策として
- オープンな職場環境:悩みや不満を相談しやすい雰囲気作り
- 適切な評価制度:公正な人事評価と昇進機会の提供
- ワークライフバランス:過度なストレスを避ける労働環境
- メンタルヘルスケア:心理的なサポート体制の整備
事件発生時の対処法
万が一、内部犯行が疑われる事案が発生した場合の対処法もお伝えします:
immediate Response(初動対応)
- 証拠保全:関連するシステムやファイルを保護
- 被害拡大防止:該当者のアクセス権を即座に停止
- 事実確認:客観的な証拠に基づく調査の開始
- 専門家への相談:フォレンジック専門業者や弁護士への相談
フォレンジック調査のポイント
デジタル証拠の収集と分析では、以下の点が重要です:
- アクセスログの詳細分析
- メール履歴の調査
- ファイルアクセス履歴の確認
- 外部デバイス接続履歴の調査
- ネットワーク通信ログの分析
まとめ:内部犯行対策は継続的な取り組みが必要
今回の警視庁警部補による情報漏洩事件は、どんなに厳格な組織でも内部犯行のリスクは存在することを改めて示しました。
重要なのは、技術的対策と人的対策の両輪で取り組むことです。アンチウイルスソフト
やVPN
、Webサイト脆弱性診断サービス
といった技術的な防御手段を導入しつつ、組織風土の改善や従業員教育にも継続的に投資することが、真の情報セキュリティ対策につながります。
特に中小企業の皆さんは、「うちには盗まれるような情報はない」と思われがちですが、顧客情報や取引先情報、技術的なノウハウなど、必ず守るべき情報資産があるはずです。規模の大小に関わらず、自社に適した内部犯行対策を検討してみてください。

