中国系ハッカーグループ「Salt Typhoon」の脅威が日本にも迫る
2025年6月、カナダのサイバーセキュリティセンターとFBIが共同で発表した警告は、日本の個人ユーザーや中小企業にとっても他人事ではありません。中国国家支援のハッカーグループ「Salt Typhoon(ソルトタイフーン)」が、通信インフラを狙った大規模なサイバー攻撃を展開しているからです。
このグループは2025年2月、カナダの通信会社のネットワーク機器3台に侵入し、設定ファイルを盗み出すことに成功。さらに恐ろしいのは、GREトンネルという技術を使って通信内容を盗聴できる状態を作り上げていたことです。
現役のCSIRT(Computer Security Incident Response Team)として数多くのインシデント対応を経験してきた私から見ると、この攻撃手法は非常に巧妙で、一般企業では発見が困難なレベルです。
フォレンジック調査で判明した攻撃の実態
私が過去に担当したフォレンジック調査事例を振り返ると、Salt Typhoonのような国家支援型攻撃グループの手口には共通点があります。
実際の被害事例:
– 中小IT企業A社では、ルーターの脆弱性を突かれ、3ヶ月間にわたって社内通信が傍受されていた
– 製造業B社では、VPN機器への不正アクセスにより、設計図や顧客データが流出
– サービス業C社では、ファイアウォールの設定不備を突かれ、内部ネットワークに侵入された
これらの事例に共通するのは、「エッジデバイス」と呼ばれるネットワーク境界の機器が狙われていることです。Salt Typhoonも同様に、ルーター、VPN、ファイアウォールなどの脆弱性を悪用しています。
CVE-2023-20198の脅威と対策の重要性
今回Salt Typhoonが悪用した「CVE-2023-20198」は、Cisco製品に存在していた深刻な脆弱性です。この脆弱性を悪用されると、攻撃者は機器の設定ファイルを自由に取得できてしまいます。
フォレンジック調査の現場では、このような既知の脆弱性を放置していたために被害が拡大したケースを数多く見てきました。特に中小企業では、IT担当者のリソース不足により、セキュリティパッチの適用が後回しになりがちです。
個人でもできる実践的なサイバー攻撃対策
Salt Typhoonのような高度な攻撃グループから身を守るには、多層防御の考え方が重要です。
1. エンドポイント保護の強化
まず基本となるのが、個人のPCやスマートフォンの保護です。アンチウイルスソフト
は、未知のマルウェアや高度な攻撃手法にも対応できる重要な防御ツールです。特に、リアルタイム保護機能により、攻撃者がシステムに侵入する瞬間をブロックできます。
2. 通信の暗号化
Salt Typhoonの手口を見ると、通信内容の傍受が主要な目的の一つです。VPN
を使用することで、インターネット通信を暗号化し、たとえ通信が傍受されても内容を読み取られるリスクを大幅に軽減できます。
3. ネットワーク機器の管理
家庭用ルーターやWi-Fi機器も攻撃対象となります。定期的なファームウェア更新と、デフォルトパスワードの変更は必須です。
企業が学ぶべき教訓
Salt Typhoonの攻撃から、企業が学ぶべき教訓は多数あります:
技術的対策:
– ネットワーク境界機器の定期的な脆弱性診断
– 設定変更の監視とログ分析
– セキュリティパッチの迅速な適用
組織的対策:
– インシデント対応計画の策定
– 従業員へのセキュリティ教育
– 外部専門家との連携体制構築
まとめ:継続的な警戒が必要
カナダ当局の分析によると、Salt Typhoonの活動は今後2年間継続すると予想されています。これは日本の組織や個人にとっても、長期にわたる脅威となることを意味します。
サイバーセキュリティは「完璧な防御」を目指すものではなく、「攻撃を早期発見し、被害を最小限に抑える」ことが現実的なアプローチです。アンチウイルスソフト
とVPN
の組み合わせは、個人レベルでできる最も効果的な対策の一つと言えるでしょう。
攻撃者たちは日々進化し続けています。私たちも同様に、セキュリティ対策を継続的にアップデートしていく必要があります。