アサヒグループを襲ったQilinランサムウェア攻撃の全貌
2025年9月29日、日本を代表する飲料メーカー・アサヒグループホールディングスがサイバー攻撃を受け、その影響で販売システムに深刻な障害が発生しました。現役CSIRTアナリストとして数多くのランサムウェア事案を調査してきた経験から、この事例は企業のサイバーセキュリティ対策を考える上で重要な学びを提供しています。
この攻撃には、近年猛威を振るっているランサムウェアグループ「Qilin(キリン)」が関与していると報告されています。Qilinは2022年から活動を開始した比較的新しいグループですが、その手法は巧妙で、大企業を標的とした攻撃を得意としています。
Qilinランサムウェアグループの特徴と手法
私がこれまでに調査したQilin関連の事案から見えてくる特徴をお伝えします:
- 標的型攻撃:無差別ではなく、大手企業や重要インフラを狙い撃ち
- 二重恐喝手法:データを暗号化するだけでなく、盗み出したデータを公開すると脅迫
- 高度な潜伏技術:システムに侵入後、長期間発見されずに活動
- ダークウェブでの情報戦:攻撃成功を誇示し、他の企業への威嚇効果を狙う
アサヒグループの迅速な復旧対応と売上回復
今回のアサヒグループの対応は、サイバー攻撃を受けた企業としては極めて優秀な復旧プロセスを示しています。
段階的復旧戦略の成功事例
アサヒビール:10月2日から「スーパードライ」など主力品の出荷を再開し、10月の売上は前年比9割超まで回復
アサヒ飲料:10月3日から主力品に絞って出荷を再開し、最終的に前年比8割程度まで回復
アサヒグループ食品:社会的ニーズの高い粉ミルクやベビーフードを優先出荷し、前年比7割超の売上を確保
フォレンジック調査から見える攻撃の影響範囲
現在も受注・出荷システムが手作業対応を余儀なくされている状況から、この攻撃がいかに深刻だったかが分かります。私の経験では、このような基幹システムへの攻撃には以下のパターンが考えられます:
想定される攻撃シナリオ
- 初期侵入:メールやWebサイトの脆弱性を突いた侵入
- 権限昇格:ドメイン管理者権限の奪取
- 横展開:社内ネットワーク全体への拡散
- データ窃取:重要情報の外部送信
- 暗号化実行:基幹システムの暗号化による業務停止
個人・中小企業が学ぶべき教訓と対策
アサヒグループのような大企業でも深刻な被害を受ける現実を踏まえ、個人や中小企業はより一層の注意が必要です。
実際のフォレンジック事例から学ぶリスク
私が最近調査した中小企業の事例では、以下のような被害が発生しています:
- 製造業A社:工場の制御システムが3週間停止、損失額約2億円
- 小売業B社:顧客データ10万件が流出、信頼回復に1年以上要した
- 医療法人C院:電子カルテシステムが暗号化され、診療に3ヶ月の影響
効果的な予防策
1. エンドポイント保護の強化
個人や中小企業こそ、信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入が不可欠です。従来型のアンチウイルスでは検知できない高度なマルウェアに対応できる製品を選びましょう。
2. ネットワークセキュリティの確保
リモートワークが常態化した現在、VPN
の利用は必須です。特に重要な業務データにアクセスする際は、暗号化された通信経路を確保することが重要です。
3. Webサイトの脆弱性対策
企業サイトを運営している場合、定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
によってセキュリティホールを早期発見し、攻撃者の侵入経路を断つことが重要です。
復旧プロセスで重要な初動対応
アサヒグループの迅速な復旧を支えたのは、適切な初動対応にあります。サイバー攻撃を受けた際の正しい対応手順を知っておくことは、被害の最小化に直結します。
攻撃発覚時の対応チェックリスト
- 影響範囲の特定と隔離
- 証拠保全のためのフォレンジック対応
- ステークホルダーへの報告
- 業務継続計画の発動
- 復旧作業の優先順位決定
今後の見通しと企業が取るべき行動
Qilinグループのような高度なランサムウェア攻撃は今後も増加することが予想されます。アサヒグループの事例は、適切な準備と対応により、深刻な攻撃からも比較的短期間で回復できることを示しています。
しかし、すべての企業がアサヒグループと同等のリソースを持っているわけではありません。だからこそ、予防対策への投資が重要になります。

