証券口座が狙われる時代が到来
証券口座の不正アクセス被害が急拡大し、2024年5月末時点で被害額が5240億円に達しました。これは過去に例を見ない規模の金融犯罪です。
野村證券、SBI証券、楽天証券といった大手から中堅証券会社まで被害が拡大しており、もはや「どこなら安全」という状況ではありません。特に注目すべきは、NISA口座も標的になっている点です。
実際の被害事例:1時間で2000万円が消失
フォレンジック調査で明らかになった典型的な攻撃パターンを紹介します。
ある個人投資家の事例では、朝9時にログインした際に異常に気づいたものの、既に時遅し。前日深夜から早朝にかけて、保有株式が勝手に売却され、その資金で別の銘柄を大量購入・即座に売却する操作が繰り返されていました。
攻撃者は以下の手順で口座を乗っ取ります:
1. フィッシングメールやSMSでログイン情報を窃取
2. 深夜~早朝の時間帯に不正ログイン
3. 保有株式を市場価格で売却
4. 流動性の低い銘柄を高値で購入(グルになった別の口座に利益移転)
5. 即座に安値で売却し、資金を別口座に移動
ダークウェブで売買される口座情報
サイバー犯罪の捜査では、ダークウェブ上で証券口座のログイン情報が14万件以上売買されていることが判明しています。価格は1口座あたり数千円から数万円で、口座残高や取引実績によって値段が決まります。
証券会社の対応と補償問題
現在、証券各社は被害補償の方針を巡って混乱しています。当初は「損害額の4分の1~2分の1補償」という方針でしたが、金融庁から全額補償への見直し要請があり、業界内で調整が難航しています。
多要素認証を提供していたかどうかで補償割合を変える案もありましたが、根本的な問題は個人投資家側のセキュリティ意識の不足です。
個人投資家が今すぐできる対策
1. 強固なパスワード設定
– 証券口座専用の複雑なパスワードを設定
– 他のサービスとは絶対に使い回さない
– 定期的な変更を習慣化
2. 多要素認証の必須化
– SMS認証より認証アプリを推奨
– 可能であればハードウェアトークンを利用
3. 定期的な取引履歴チェック
– 毎日ログインして残高・保有株式を確認
– 不審な取引があれば即座に証券会社に連絡
4. デバイスセキュリティの強化
証券取引に使用するデバイスには、必ず信頼性の高いアンチウイルスソフト
を導入しましょう。マルウェアによる情報窃取を防ぐことができます。
5. 通信の暗号化
外出先からの取引時は、必ずVPN
を使用して通信を暗号化してください。公共Wi-Fiでの取引は特に危険です。
CSIRTからの警告:攻撃の巧妙化
最近の攻撃では、ワンタイムパスワードさえも突破される事例が報告されています。攻撃者は複数の口座を同時進行で乗っ取り、リアルタイムで認証情報を悪用する「同時多発攻撃」を仕掛けてきます。
従来の「パスワードを複雑にしておけば大丈夫」という考えは、もはや通用しません。多層防御の考え方で、複数のセキュリティ対策を組み合わせることが重要です。
まとめ:資産を守るのは自分自身
証券口座の乗っ取り被害は今後も増加が予想されます。補償制度の整備を待つのではなく、自分の資産は自分で守る意識が不可欠です。
特に投資額が大きい方、NISA口座で長期投資をしている方は、セキュリティ投資を惜しんではいけません。数千円のセキュリティ対策で数千万円の資産を守れるなら、それは最も確実な投資と言えるでしょう。