2024年末から2025年初頭にかけて、日本の航空会社や金融機関、通信事業者などを狙った大規模なDDoS攻撃が発生しました。現役のCSIRT(Computer Security Incident Response Team)として、この攻撃の詳細と、個人・中小企業が取るべき対策について詳しく解説します。
2024年末DDoS攻撃の全貌
今回のDDoS攻撃は、従来の単発的な攻撃とは大きく異なる特徴を持っていました。
攻撃の特徴
- 混成型攻撃:SYN、ACK、UDPフラッド攻撃、DNS攻撃、HTTPフラッド攻撃を組み合わせ
- タイミング:年末年始の利用者集中時期を狙った計画的攻撃
- 規模:世界各地300台超のIoT機器をボット化した絨毯爆撃型
- 被害:予約システム、ネットバンキング、決済サービスに深刻な障害
私がこれまで対応してきた事例の中でも、これほど計画的かつ大規模な攻撃は珍しく、攻撃者の高度な技術力と組織力を物語っています。
実際のフォレンジック事例から見る被害パターン
私が過去に対応した中小企業のDDoS攻撃事例をご紹介します。
事例1:地方の製造業A社
従業員50名程度の製造業で、Webサイトと社内システムが同時に攻撃を受けました。攻撃開始から復旧まで3日間を要し、その間の機会損失は約500万円に上りました。特に問題だったのは、社内のIoT機器(監視カメラや温度管理システム)が攻撃に利用されていた点です。
事例2:ECサイト運営のB社
年商3億円規模のECサイトが、セール期間中にDDoS攻撃を受けました。攻撃者は明らかに売上が最大化する時期を狙っており、2日間のサイト停止で約800万円の売上機会を失いました。
新たな脅威:Google認証連携を悪用する攻撃
NTTデータのレポートで特に注目すべきは、「ドメインドロップキャッチからGoogle認証連携を不正利用する攻撃手法」です。
攻撃の仕組み
- 企業が手放したドメインを攻撃者が取得
- 元の組織と同じメールアドレスを作成
- Google Workspaceアカウントと各種SaaSを連携
- 正規ユーザーになりすまして機密情報を窃取
この攻撃手法は特に恐ろしく、ChatGPT、Slack、Notionなど多くのビジネスツールから情報が盗まれる可能性があります。
個人・中小企業が今すぐ実践すべき対策
1. 多層防御の構築
DDoS攻撃に対しては、単一の対策では不十分です。以下の組み合わせが重要です:
- ネットワークレベル:ファイアウォール設定の見直し
- アプリケーションレベル:レート制限の実装
- エンドポイント保護:信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入
2. IoT機器のセキュリティ強化
今回の攻撃でも300台超のIoT機器がボット化されました。以下の対策が急務です:
- デフォルトパスワードの変更
- 定期的なファームウェア更新
- 不要なポートの閉鎖
- ネットワーク分離の実施
3. 通信の暗号化と匿名化
特に重要なのが通信経路の保護です。信頼性の高いVPN
を導入することで、以下のメリットが得られます:
- 通信内容の暗号化
- IPアドレスの隠蔽
- 地理的制限の回避
- 公衆Wi-Fi利用時の安全性確保
マイナンバーカード更新を狙った攻撃への備え
NTTデータのレポートでは、2025年がマイナンバーカードの電子証明書更新ピークになると予測されています。マイナポイント制度開始から5年目となる今年、フィッシング攻撃の増加が懸念されます。
対策のポイント
- 公式サイト以外からのアクセスを避ける
- メールやSMSのリンクは直接クリックしない
- ブックマークから公式サイトにアクセス
- 二要素認証の積極的な活用
NFCタッチ決済「Ghost Tap」攻撃への対策
新たに報告された「Ghost Tap」攻撃は、NFCタッチ決済の脆弱性を悪用した巧妙な手法です。
攻撃の流れ
- フィッシングでクレジットカード情報を窃取
- 攻撃者のスマートフォンに登録
- NFCリレーツールで協力者のスマートフォンに中継
- 不正決済を実行
防御策
- 決済通知の即座確認
- 定期的な利用明細チェック
- 不要時のNFC機能オフ
- 決済アプリの限度額設定
中小企業のCSIRT構築のススメ
私の経験上、被害を最小限に抑えられる企業は、事前にインシデント対応体制を整備している企業です。規模に応じたCSIRT(Computer Security Incident Response Team)の構築をお勧めします。
最小構成のCSIRT
- 責任者:経営陣または部門長
- 技術担当:IT担当者または外部専門家
- 広報担当:顧客対応・報告書作成
- 法務担当:法的対応・契約関連
まとめ:今こそ行動の時
2024年末のDDoS攻撃は、サイバー攻撃の手法がより高度化・組織化していることを示しています。個人・中小企業も例外ではなく、今まで以上に積極的な対策が必要です。
特に重要なのは:
- 信頼性の高いアンチウイルスソフト
による基本的な保護
- VPN
を活用した通信の安全性確保
- IoT機器を含む全デバイスのセキュリティ強化
- 従業員のセキュリティ意識向上
サイバー攻撃は「いつか起こるかもしれない」ではなく、「いつ起こってもおかしくない」現実的な脅威です。今すぐできることから始めて、大切な情報と事業を守りましょう。