最近、医療機関を狙ったサイバー攻撃のニュースを見かけることが増えましたが、実際の対策状況はどうなっているのでしょうか。2025年5月に公表された医療トレーサビリティ推進協議会の調査結果は、かなり衝撃的な内容でした。
医療機関の半数以上が「これから検討」の危険な現実
調査によると、医療機関の54%がサイバー攻撃のリスクを認識しているにも関わらず、対応について「これから検討する」と回答しています。つまり、リスクは分かっているけれど、具体的な対策はまだ何も講じていないということです。
フォレンジックアナリストとして数々の医療機関のインシデント対応に関わってきた経験から言えば、この状況は非常に危険です。医療機関は患者の生命に関わる重要な個人情報を大量に保有しており、攻撃者にとって格好のターゲットになっているからです。
実際に起きた医療機関へのサイバー攻撃事例
私が実際に調査した事例では、以下のような被害が発生しています:
- ランサムウェア攻撃:中規模病院で電子カルテシステムが暗号化され、2週間にわたって診療が停止
- 患者情報流出:メール経由の標的型攻撃により、5万人分の患者データが外部に流出
- システム停止:DDoS攻撃により予約システムが機能せず、患者の診療スケジュールが大混乱
これらの事例に共通しているのは、「まさか自分たちが狙われるとは思わなかった」という認識の甘さです。
医療機関が狙われる理由
なぜ医療機関がサイバー攻撃の標的になりやすいのでしょうか?現役CSIRTメンバーとしての分析では、以下の要因があります:
- 高価値な個人情報:患者の医療情報は闇市場で高値で取引される
- セキュリティ意識の低さ:医療に専念するあまり、ITセキュリティが後回しになりがち
- 古いシステム:長年使用している医療機器やシステムにセキュリティ脆弱性
- 緊急性の高さ:患者の生命に関わるため、身代金要求に応じやすい
個人でも実践できるサイバー攻撃対策
医療機関だけでなく、個人や中小企業も同様のリスクに晒されています。私がフォレンジック調査で見た個人の被害例を紹介しましょう。
在宅勤務者のケース
医療機関で働く看護師の方が、在宅勤務中に個人のパソコンから病院のシステムにアクセスしていたところ、マルウェアに感染。そこから病院のネットワークに侵入され、大規模な情報漏洩に発展しました。
この事例では、個人のパソコンに信頼性の高いアンチウイルスソフト
が導入されていれば、初期段階で攻撃を防げた可能性が高いです。現在のアンチウイルスソフト
は、未知のマルウェアに対してもAI技術を活用した検知機能を持っており、従来型の攻撃だけでなく、新しい脅威にも対応できます。
公共Wi-Fi利用時の盗聴被害
医療関係者が学会参加のため出張先で、ホテルのWi-Fiを使用してメールを確認していたところ、通信内容を盗聴され、患者情報を含むメールが第三者に傍受されました。
このような被害は、VPN
を使用することで防げます。VPN
は通信内容を暗号化するため、たとえ盗聴されても情報の中身を見られることはありません。特に医療関係者や機密情報を扱う職業の方には必須のツールです。
今すぐできる対策チェックリスト
フォレンジック調査の経験から、以下の対策を強くお勧めします:
- ✓ 信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入
- ✓ 定期的なソフトウェアアップデート
- ✓ 公共Wi-Fi使用時のVPN
利用
- ✓ 定期的なデータバックアップ
- ✓ 従業員向けセキュリティ教育の実施
まとめ
医療機関の54%が「これから検討」という現状は、サイバー攻撃者にとって絶好のチャンスを与えています。しかし、個人レベルでできる対策から始めることで、リスクを大幅に軽減できます。
特に医療関係者や機密情報を扱う仕事をしている方は、アンチウイルスソフト
とVPN
の導入を真剣に検討してください。これらは単なる「保険」ではなく、現代のデジタル社会で働く上での「必需品」です。
サイバー攻撃は「もしも」の話ではなく、「いつ」起こるかの問題です。今日から対策を開始しましょう。