はるやまホールディングスを襲ったランサムウェア攻撃の全容
2025年6月30日、大手アパレル企業の株式会社はるやまホールディングスが、深刻なランサムウェア攻撃を受けたことを発表しました。この事件は、現代企業が直面するサイバーセキュリティの脅威の深刻さを改めて浮き彫りにしています。
現役CSIRTメンバーとして数多くのランサムウェア事案を調査してきた経験から言えば、今回の事例は典型的な企業標的型ランサムウェア攻撃の特徴を示しており、中小企業にとっても重要な教訓を含んでいます。
攻撃の経緯と被害状況
今回の攻撃は6月26日(木)に検知されました。はるやまホールディングスの迅速な対応により、該当サーバーは即座にネットワークから隔離されましたが、すでに複数のサーバーが暗号化されてしまっていました。
被害を受けたシステム:
- 各店舗のポイントサービス
- オンラインショップ機能
- スマートフォンアプリの一部機能
- 各種業務データ
- 業務用ソフトウェア
幸い、実店舗の営業は継続できており、販売業務への直接的な影響は最小限に抑えられています。これは、適切なネットワーク分離が機能していた証拠でもあります。
ランサムウェア攻撃の手口を専門家が解説
フォレンジック調査の現場で見てきた経験から、今回のような企業標的型ランサムウェア攻撃の典型的な流れを説明します。
1. 初期侵入段階
攻撃者は通常、以下のような手法で企業ネットワークに侵入します:
- フィッシングメール:社員を狙った巧妙な偽装メール
- RDP(リモートデスクトップ)攻撃:脆弱な認証設定の悪用
- VPN脆弱性の悪用:パッチが適用されていないVPN機器への攻撃
- Webアプリケーションの脆弱性:公開Webサイトの欠陥を突く
2. 水平移動と権限昇格
ネットワーク内に侵入した攻撃者は、より多くのシステムにアクセスするため権限の拡大を図ります。この段階で適切なアンチウイルスソフト
が導入されていれば、異常な動作を検知できる可能性があります。
3. データ収集と暗号化
最終段階では、重要なデータを外部に送信した後、ランサムウェアを展開してファイルを暗号化します。この「二重恐喝」手法により、企業は身代金の支払いとデータ漏洩の二重の脅威に直面することになります。
中小企業が直面するランサムウェアの現実
私が調査した事例の中でも、中小企業のランサムウェア被害は年々深刻化しています。特に印象に残っているのは、従業員50名程度の製造業企業のケースです。
実際の被害事例
その企業では、経理担当者が受信したフィッシングメールから攻撃が始まりました。メールに添付されていたExcelファイルを開いた瞬間、マルウェアがネットワーク内に拡散。わずか72時間で以下の被害が発生しました:
- 生産管理システムの完全停止
- 顧客データベースの暗号化
- 3ヶ月分の売上データ消失
- 復旧まで2週間の業務停止
- 総被害額約5,000万円
この企業では、基本的なセキュリティ対策が不十分でした。従業員のセキュリティ意識向上と、適切なアンチウイルスソフト
の導入、そして信頼できるVPN
の利用があれば、被害を大幅に軽減できていたでしょう。
今すぐ実践すべき5つのセキュリティ対策
はるやまホールディングスの事例から学び、中小企業が今すぐ実装すべき対策をまとめました。
1. 多層防御体制の構築
単一の対策に依存せず、複数の防御層を設けることが重要です:
- エンドポイント保護:各デバイスに高性能なアンチウイルスソフト
を導入
- ネットワーク監視:異常な通信を検知するシステム
- メールセキュリティ:フィッシング攻撃を防ぐフィルタリング
- アクセス制御:必要最小限の権限付与
2. 定期的なバックアップと復旧テスト
ランサムウェア攻撃を受けても事業継続できるよう、以下を実施してください:
- 重要データの自動バックアップ(複数世代保持)
- オフラインバックアップの作成
- 月1回の復旧テスト実施
- 業務継続計画(BCP)の策定
3. 従業員教育の徹底
人的要因は最大の脆弱性でもあり、最強の防御にもなります:
- フィッシングメール訓練の実施
- セキュリティ意識向上研修
- インシデント報告手順の周知
- パスワード管理の徹底
4. ネットワークセキュリティの強化
外部からの不正アクセスを防ぐため:
- ファイアウォールの適切な設定
- 不要なポートの閉鎖
- VPN利用時は信頼できるVPN
を選択
- 定期的なセキュリティ診断
5. インシデント対応体制の整備
攻撃を受けた際の迅速な対応が被害を最小限に抑えます:
- 緊急連絡体制の構築
- 外部専門家との事前契約
- 法執行機関への通報手順
- ステークホルダーへの報告体制
コスト効果の高いセキュリティソリューション
中小企業の予算制約を考慮し、費用対効果の高い対策を優先順位順に紹介します。
immediate(緊急度:高)
1. **信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入**
– 全デバイスへの統一ソリューション導入
– リアルタイム監視機能
– 月額コスト:従業員1人あたり数百円程度
2. **セキュアなVPN
の利用**
– テレワーク時の安全な接続確保
– 公衆Wi-Fi利用時の暗号化
– 月額コスト:1,000円程度
短期(3ヶ月以内)
3. **バックアップシステムの強化**
4. **従業員向けセキュリティ研修**
5. **ネットワークセキュリティ機器の更新**
中長期(6ヶ月〜1年)
6. **セキュリティ監視体制の構築**
7. **インシデント対応計画の策定**
8. **定期的なセキュリティ診断**
まとめ:予防は治療に勝る
はるやまホールディングスの事例は、どれほど大きな企業でもランサムウェア攻撃の脅威から完全に逃れることは困難であることを示しています。しかし、適切な予防策を講じることで、被害を大幅に軽減することは可能です。
特に中小企業では、限られたリソースの中で最大の効果を得るため、基本的なセキュリティ対策の徹底が重要です。高性能なアンチウイルスソフト
と信頼できるVPN
の導入は、コストパフォーマンスの観点からも最優先で検討すべき対策と言えるでしょう。
サイバー攻撃は「もしも」ではなく「いつか」起こるものとして捉え、今日からでも実行できる対策を一つずつ積み重ねていくことが、企業の継続的な成長と発展を支える基盤となります。