職員によるなりすまし不正アクセス事件が発覚
奈良市で衝撃的な内部不正事件が明らかになりました。道路維持課の男性職員が人事課職員になりすまして、約1年間にわたり31回も人事データに不正アクセスしていたというものです。
この事件、実は氷山の一角なんです。私たちCSIRTが日々対応している案件の中で、内部不正による情報漏洩は思っている以上に頻繁に発生しています。
事件の詳細と処分内容
今回の事件では以下のような事実が判明しました:
- 期間:2022年5月~2023年4月(約1年間)
- 回数:少なくとも31回の不正アクセス
- 手口:人事課職員へのなりすまし
- 処分:停職2か月の懲戒処分
- 刑事処分:罰金20万円の略式命令
幸い外部への情報流出は確認されていませんが、これは偶然の結果に過ぎません。
内部不正が引き起こす深刻なリスク
実際のフォレンジック調査事例
私が担当した類似事例をいくつかご紹介します:
ケース1:中小企業の経理担当者による顧客データ持ち出し
退職予定の経理担当者が、転職先で使用するために顧客リストを私物のUSBメモリにコピー。その後、競合他社に転職し、顧客情報を利用して営業活動を開始。元の会社は顧客の大量流出により売上が30%減少しました。
ケース2:IT企業での特権アカウント悪用
システム管理者が管理者権限を悪用し、社内の機密情報や同僚の個人情報を収集。収集した情報をダークウェブで販売していることが発覚。企業は信頼失墜により株価が20%下落しました。
内部不正の特徴と危険性
内部不正は外部からの攻撃と比べて以下の特徴があります:
- 発見が困難:正規の権限を悪用するため、ログ上は正常なアクセスとして記録される
- 被害規模が大きい:内部者は重要な情報の在り処を知っているため、効率的に機密情報にアクセスできる
- 継続期間が長い:今回の事例のように1年以上継続するケースも珍しくない
- 信頼関係の破綻:組織内の信頼関係に深刻なダメージを与える
効果的な内部不正対策
技術的対策
1. アクセス制御の強化
最小権限の原則に基づき、業務に必要最小限のアクセス権限のみを付与します。今回の事例でも、道路維持課職員に人事データへのアクセス権限があったことが問題の根本原因です。
2. 多要素認証の導入
パスワードだけでなく、生体認証やトークンを組み合わせることで、なりすましを大幅に困難にできます。
3. ログ監視の徹底
通常とは異なるアクセスパターンを検知する仕組みを構築。AIを活用した異常検知システムの導入も効果的です。
運用面での対策
1. 定期的な権限見直し
人事異動や業務変更に伴い、不要になったアクセス権限を速やかに削除します。
2. 内部監査の実施
第三者による定期的な監査により、権限の適切性をチェックします。
3. 従業員教育の強化
内部不正のリスクと処罰について、全従業員に定期的な教育を実施します。
個人でできるセキュリティ対策
組織だけでなく、個人レベルでもセキュリティ意識を高めることが重要です。
デバイスの保護
個人のパソコンやスマートフォンには、信頼性の高いアンチウイルスソフト
を導入しましょう。マルウェアによる情報窃取や、不正なリモートアクセスを防ぐことができます。
特に在宅勤務が増えた現在、個人デバイスからの情報漏洩リスクが高まっています。包括的なセキュリティソフトは、リアルタイムでの脅威検知や、不審なファイルアクセスの監視機能を提供します。
通信の暗号化
公衆Wi-Fiなどの不安全なネットワークを使用する際は、VPN
の利用が必須です。通信内容を暗号化することで、第三者による盗聴や中間者攻撃を防げます。
特にクラウドサービスへのアクセスや、機密性の高い情報をやり取りする際は、VPN接続により安全な通信経路を確保することが重要です。
まとめ:継続的なセキュリティ対策の重要性
今回の奈良市の事例は、内部不正がいかに身近で深刻な脅威であるかを示しています。「うちの組織は大丈夫」という根拠のない安心感は、最も危険な考え方です。
現役のCSIRTメンバーとして強調したいのは、セキュリティ対策は一度実施すれば終わりではなく、継続的な改善が必要だということです。
技術の進歩とともに脅威も進化し続けています。組織の規模に関わらず、基本的なセキュリティ対策を確実に実装し、定期的に見直しを行うことが、長期的な安全確保につながります。