レバテックが2025年7月4日に発表した調査結果が、日本企業のサイバーセキュリティ対策の厳しい現実を浮き彫りにしました。国内企業のIT部門と経営層516人を対象とした調査で、約4割の企業がサイバー攻撃被害を経験しているにも関わらず、セキュリティ対策に十分な投資ができていると回答した経営者は約2割に留まったのです。
衝撃の調査結果:企業の4割が被害経験
今回の調査で最も注目すべきは、39.0%の企業が実際にサイバー攻撃を受けた経験があるという事実です。これは10社に約4社の割合で、決して他人事ではない数字です。
私がフォレンジックアナリストとして現場で見てきた被害事例を振り返ると、この数字は氷山の一角に過ぎません。多くの企業は攻撃を受けても気づかなかったり、被害を公にしたがらないケースが多いからです。
実際の被害事例から学ぶ
先日対応した中小企業の事例では、ランサムウェアによって基幹システムが暗号化され、3日間の業務停止に追い込まれました。復旧費用は約500万円、売上機会損失を含めると1,000万円以上の被害となりました。
この企業の社長は「うちみたいな小さな会社が狙われるとは思わなかった」と話していましたが、実際には中小企業ほど狙われやすいのが現実です。セキュリティ対策が手薄だからです。
投資と認識のギャップが深刻
調査では興味深い矛盾も明らかになりました。9割以上の担当者・経営層がセキュリティ対策への投資を「重要」と認識している一方で、「十分に投資できている」と回答したのは2割のみでした。
このギャップの背景には、以下の要因があります:
- 予算の制約と優先順位の問題
- セキュリティ対策の具体的な効果が見えにくい
- 技術的な知識不足による判断の困難さ
- 「うちは大丈夫」という楽観的な思い込み
他社の被害が最大の動機となる皮肉な現実
セキュリティ対策に着手したきっかけとして最も多かったのは、「他社がサイバー攻撃を受けたことを知り、自社のセキュリティ対策を強化したいと考えたため」(63.8%)でした。
これは典型的な「後手に回る対策」の例です。CSIRTの現場では、「隣の家が火事になってから消火器を買う」ような状況を数多く見てきました。
今からでも遅くない:個人・中小企業の現実的な対策
では、限られた予算でどのような対策を取るべきでしょうか?私が推奨するのは以下の段階的アプローチです:
第1段階:基本的な防御の確立
まず最も重要なのは、信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入です。これは家に鍵をかけるのと同じレベルの基本的な対策です。
最近のアンチウイルスソフト
は、従来のウイルス検知だけでなく、ランサムウェアや不正アクセスも検知できる高度な機能を持っています。月額数百円から数千円の投資で、数百万円の被害を防げる可能性があります。
第2段階:通信の暗号化
テレワークが普及した今、社外からの業務アクセスは避けられません。この際に重要なのがVPN
の活用です。
公共Wi-Fiを使用する際や、自宅から会社のシステムにアクセスする際の通信を暗号化することで、データの盗聴や改ざんを防ぐことができます。
投資額の現実:7割が増額予定
今回の調査では、約7割の企業が今後のセキュリティ投資を増やす予定と回答しました。これは危機感の表れでもあり、同時に現状の対策が不十分だという自覚の表れでもあります。
企業規模別では、従業員数1000人以上の大企業で「十分に投資できている」と回答した割合が27.1%だったのに対し、1000人未満の企業では13.1ポイント低い結果となりました。
中小企業こそ効率的な対策を
限られた予算の中小企業では、以下のような効率的な対策が有効です:
- 従業員教育の徹底:フィッシングメールやソーシャルエンジニアリングの手口を学ぶ
- 定期的なバックアップ:クラウドストレージの活用で自動化
- アクセス権限の管理:必要最小限の権限付与
- セキュリティソフトの導入:個人レベルでも企業レベルでも基本中の基本
セキュリティ対策の「投資対効果」を考える
セキュリティ対策への投資が重要な理由として、調査では以下が挙げられています:
- 情報漏洩リスクの低減(84.8%)
- 将来的な損失の最小化(52.3%)
- 事業継続性の確保(48.2%)
これらの理由を見ると、セキュリティ対策は「コスト」ではなく「投資」だということが分かります。
被害を受けた企業の典型的な損失
私が担当した事例での実際の損失を紹介します:
- 直接的な損失:システム復旧費用、データ復旧費用、外部専門家への依頼費用
- 間接的な損失:業務停止による売上機会損失、顧客信頼の失墜、法的対応費用
- 長期的な損失:レピュテーションダメージ、取引先からの信頼失墜、コンプライアンス対応費用
これらの損失を考えると、事前の対策にかかるコストは決して高くありません。
今すぐ始められる具体的な対策
この記事を読んでいるあなたも、明日からサイバー攻撃の標的になる可能性があります。以下の対策を今すぐ実践してください:
個人レベルでの対策
- 高品質なアンチウイルスソフト
の導入:リアルタイム保護機能付きのものを選ぶ
- VPN
の活用:公共Wi-Fi利用時は必須
- パスワード管理:複雑なパスワードを使い回さない
- 定期的なアップデート:OS、ソフトウェアを最新状態に保つ
企業レベルでの対策
- 従業員教育の実施:定期的なセキュリティ研修
- アクセス制御の強化:多要素認証の導入
- インシデント対応計画の策定:被害を受けた際の対応手順を明確化
- 定期的な脆弱性診断:専門業者による定期チェック
まとめ:今こそ行動を起こす時
レバテックの調査結果は、日本企業のサイバーセキュリティ対策の現実を如実に示しています。4割の企業が被害を経験し、7割が投資を増やす予定という状況は、もはや「対岸の火事」ではありません。
重要なのは、完璧な対策を求めるのではなく、今できることから始めることです。基本的なアンチウイルスソフト
の導入やVPN
の活用から始めて、段階的に対策を強化していけば、多くの攻撃から身を守ることができます。
「他社の被害を見てから対策を始める」のではなく、「今すぐ対策を始めて被害を防ぐ」という発想に切り替えることが重要です。あなたの会社、あなたの個人情報を守るために、今日から行動を起こしましょう。