Call of Duty: WW2で発生した深刻なハッキング事件の全貌
2025年7月、MicrosoftのPC Game Passに追加されたばかりの「Call of Duty: WW2」で、前代未聞のハッキング被害が発生しました。わずか数日間で多数のユーザーがサイバー攻撃の被害を受け、同作の配信が緊急停止される事態となっています。
現役CSIRTメンバーとして数多くのサイバー攻撃事案を分析してきた私が、今回の事件の技術的詳細と、個人ゲーマーが取るべき対策について詳しく解説していきます。
RCE攻撃による深刻な被害状況
今回の攻撃では「リモートコード実行(RCE:Remote Code Execution)」という極めて危険な手法が使われました。これは攻撃者が被害者のPCを遠隔操作で完全にコントロールできる攻撃手法です。
実際に報告された被害内容:
- 勝手にメモ帳が起動してメッセージが表示される
- ランダムなポルノコンテンツを強制表示
- デスクトップ壁紙を弁護士の顔写真に変更
- PC の強制シャットダウン
- ゲーム内でのゴッドモード有効化
- プレイヤーの強制追放
なぜこれほど危険なのか?今回は「運が良かった」
フォレンジック調査の現場で数多くのRCE攻撃を分析してきましたが、今回の攻撃者は「悪質なイタズラ」にとどめていました。しかし、RCE攻撃の真の恐ろしさはここからです。
RCE攻撃で実際に可能なこと:
- 銀行口座やクレジットカード情報の窃取
- 個人写真や機密ファイルの盗難
- ランサムウェアの感染
- 仮想通貨ウォレットの盗難
- 企業の機密情報漏洩
- 他のPCへの感染拡大
実際に私が担当した事例では、オンラインゲーム経由で侵入されたPC から、企業の顧客データベース30万件が流出したケースもありました。攻撃者がゲームを踏み台にして、VPN接続先の会社ネットワークまで侵入していたのです。
ゲーム経由のサイバー攻撃は増加傾向
Call of Duty: WW2の事件は決して特殊なケースではありません。近年、ゲームを標的としたサイバー攻撃は急激に増加しています。
過去の主要な事例
DARK SOULS III RCE攻撃(2022年)
同じくRCE攻撃により、プレイヤーのPCが完全に乗っ取られる脆弱性が発見され、サーバーが長期間停止されました。
Apex Legends チートツール感染事件
私が分析したケースでは、チートツールに偽装したマルウェアにより、200台以上のPCがボットネット化され、仮想通貨のマイニングに悪用されていました。
Counter-Strike: GO スキン詐欺
偽のスキン取引サイトを通じて、Steam認証情報が大量に盗まれ、総額数千万円相当のデジタル資産が盗難されました。
なぜゲームが狙われるのか
- ユーザー数の多さ:数百万人規模のプレイヤーベース
- セキュリティ意識の低さ:娯楽目的で警戒心が薄い
- リアルタイム通信:常時ネットワーク接続が必要
- アップデート頻度:セキュリティパッチの適用が遅れがち
個人ゲーマーが今すぐ実践すべき防御策
フォレンジック調査で得た知見を基に、実効性の高い対策をご紹介します。
基本防御の徹底
1. 信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入
ゲーム実行中でも動作する、パフォーマンスを重視したアンチウイルスソフト
を選ぶことが重要です。特に「ゲームモード」機能があり、リアルタイム保護を維持しながらゲームプレイに影響を与えないものを選択してください。
2. ネットワーク通信の暗号化
ゲーム中の通信を暗号化するVPN
の使用を強く推奨します。特に公衆Wi-Fi環境でのゲームプレイでは必須です。また、VPN
により自分の実際のIPアドレスが隠されるため、標的型攻撃のリスクも軽減されます。
応用的な防御策
3. ゲーム専用ユーザーアカウントの作成
管理者権限を持たない専用アカウントでゲームを実行することで、RCE攻撃の被害を局所化できます。
4. ネットワーク分離
可能であれば、ゲーム用とそれ以外の用途でネットワークを分離してください。企業でテレワークをしている方は特に重要です。
5. 定期的なバックアップ
万が一ランサムウェアに感染した場合に備え、重要なデータは定期的にオフライン環境にバックアップしてください。
被害を受けた場合の対処法
もしRCE攻撃の被害を受けた疑いがある場合は、以下の手順で対処してください:
- ネットワークから即座に切断
- パスワードの変更(別デバイスから)
- フォレンジック調査の実施
- 法執行機関への通報
個人の場合でも、被害額が大きい場合や企業データが関わる場合は、専門のフォレンジック調査会社への相談を検討してください。
企業・組織が取るべき対策
従業員がテレワーク環境でゲームをプレイしている可能性がある企業は、以下の対策を検討してください:
ネットワークポリシーの見直し
業務用ネットワークでのゲーム利用を制限し、必要に応じてネットワーク分離を実施してください。
エンドポイント保護の強化
従業員のデバイスに高性能なアンチウイルスソフト
を導入し、定期的なセキュリティ監査を実施してください。
インシデント対応計画の策定
ゲーム経由の攻撃を想定したインシデント対応プランを策定し、従業員への教育を実施してください。
今後の展望と注意点
Call of Duty: WW2の事件は、ゲーム業界のセキュリティ体制に大きな影響を与えると予想されます。しかし、根本的な解決には時間がかかるため、当面は個人での対策が重要です。
特に注意すべき点:
- 新しいゲームタイトルの初期版には脆弱性が潜んでいる可能性
- 人気タイトルほど攻撃者に狙われやすい
- チートツールは高確率でマルウェアが仕込まれている
まとめ:楽しいゲームライフのために
ゲームは素晴らしい娯楽ですが、同時にサイバー攻撃の入り口にもなり得ます。適切なアンチウイルスソフト
とVPN
の使用、そして基本的なセキュリティ意識があれば、安全にゲームを楽しむことができます。
Call of Duty: WW2の事件を他人事と考えず、この機会に自分のセキュリティ環境を見直してみてください。少しの投資と注意で、大きな被害から身を守ることができるのです。
一次情報または関連リンク:
PC Gamer – Call of Duty: WW2 pulled from PC following reports of remote code exploit
GameSpot – Call Of Duty: WWII’s Game Pass PC Version Was Pulled