企業のデータ管理において、サイバー攻撃による被害は年々深刻化しています。2024年だけでも、ランサムウェア攻撃による被害総額は数十億円に達し、特に中小企業では復旧に数ヶ月を要するケースが続出しました。
そんな中、アイ・オー・データ機器から発売された法人向けNAS「LAN DISK H」シリーズは、サイバー攻撃対策として注目すべき「3層防御」を実現しています。現役のCSIRT(Computer Security Incident Response Team)として、実際の攻撃事例を交えながら、この製品の防御機能について詳しく解説します。
法人向けNAS「LAN DISK H」の基本スペック
まず、「LAN DISK H」(HDL2-HB)シリーズの基本仕様を確認しましょう。
- CPU:Intel Atom C3538(クアッドコア 2.10GHz)
- メモリ:8GB
- ネットワーク:10GBASE-T対応の有線LANポート×2
- 推奨最大同時接続台数:10GbE接続時に128台、1GbE接続時に64台
- 容量ラインアップ:2TB/4TB/8TB/12TB/16TB
- 価格:17万6000円(2TB)から
特筆すべきは10GbE対応による高速データ転送能力です。大容量ファイルの頻繁なアクセスが必要な企業環境において、この性能は業務効率の向上に直結します。
なぜ企業にはNASのサイバー攻撃対策が必要なのか?
私がフォレンジック調査で関わった事例の中で、特に印象的だったのは某製造業の中小企業への攻撃でした。
実際のランサムウェア攻撃事例
この企業では、社内のファイルサーバーがランサムウェアに感染し、以下のような被害が発生しました:
- 設計図面データの暗号化により、製造ライン停止(3日間)
- 顧客データベースの暗号化により、営業活動停止(1週間)
- バックアップデータも同時に暗号化され、復旧不可能
- 総被害額:約800万円
この事例から分かるように、単純なRAID構成だけでは、サイバー攻撃に対する防御として不十分なのです。
「LAN DISK H」が実現する3層防御システム
アイ・オー・データ機器が「LAN DISK H」で提案する3層防御は、以下の3つの脅威に対応します:
第1層:故障対策 – RAIDeX技術
同社独自の冗長化技術「RAIDeX」(旧称「拡張ボリューム」)は、内蔵HDD2台を1組のペアとして、ファイル単位でデータをミラーリングします。従来のRAID 1と比較して、以下の利点があります:
- ファイル単位での冗長化により、部分的な障害にも対応
- システム領域とデータ領域の分離による安定性向上
- 片方のHDDが故障してもデータアクセスが継続可能
第2層:誤操作対策 – 履歴差分バックアップ
「履歴差分バックアップ」機能では、差分データのみを日付ごとにバックアップします。これにより:
- 誤って削除したファイルの復旧が可能
- 過去の特定時点のデータ状態に戻すことができる
- ストレージ容量を効率的に活用
実際の調査事例では、従業員の誤操作による重要データ削除が発生した企業で、この機能があったことで1時間以内にデータを復旧できました。
第3層:サイバー攻撃対策 – USBミラーリング
「USBミラーリング」は、同製品の実効容量以上のUSBハードディスクを接続することで、オフラインでのデータ保護を実現します。
- ネットワークから物理的に分離されたバックアップ
- ランサムウェアによる暗号化攻撃から保護
- 定期的なオフライン保存により、最新データの保護
現役CSIRTが推奨する追加のセキュリティ対策
NASの物理的な防御だけでなく、以下の対策も併せて実施することを強く推奨します:
エンドポイント保護の強化
各端末には信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入が必要です。特に、リアルタイムスキャン機能と機械学習による未知の脅威検知機能を備えたソリューションを選択しましょう。
ネットワーク通信の暗号化
リモートワークが常態化した現在、VPN
の活用は必須です。企業の機密データにアクセスする際は、必ず暗号化された通信経路を使用してください。
定期的な脆弱性診断
NASを含むネットワーク機器の脆弱性を定期的にチェックするWebサイト脆弱性診断サービス
の実施も重要です。攻撃者は常に新しい攻撃手法を開発しているため、proactiveな対策が求められます。
実装時の注意点とベストプラクティス
ネットワーク設計の重要性
10GbE対応の利点を活かすためには、ネットワーク全体の設計が重要です:
- スイッチングハブも10GbE対応製品を選択
- ケーブルはCat6A以上を使用
- ネットワークセグメントの適切な分離
バックアップ戦略の策定
3層防御を最大限活用するためのバックアップ戦略:
- 日次:差分バックアップの自動実行
- 週次:USBミラーリングの実行とオフライン保存
- 月次:バックアップデータの完全性チェック
コスト対効果の分析
17万6000円からという価格設定は、企業のデータ保護投資として妥当なのでしょうか。
被害コストとの比較
先ほどの事例企業では、800万円の被害に対して、適切なNAS導入費用は約30万円程度でした。ROI(投資収益率)は明らかです。
運用コストの削減
遠隔管理サービス「NarSuS」対応により、以下のコスト削減が期待できます:
- システム管理者の工数削減
- 障害対応時間の短縮
- 予防保全による機器寿命延長
まとめ:企業データ保護の新標準
アイ・オー・データ機器の「LAN DISK H」シリーズは、単なるストレージ製品ではなく、包括的なデータ保護ソリューションとして位置づけられます。
特に以下の企業には強くお勧めします:
- 設計図面や顧客データなど重要な企業資産を扱う製造業
- 患者情報を扱う医療機関
- 個人情報を大量に扱うサービス業
- システム管理者が不在の中小企業
サイバー攻撃の脅威は今後も進化し続けます。後手に回る対策ではなく、proactiveな防御システムの構築が、企業の持続的な成長には不可欠です。
「LAN DISK H」の3層防御システムは、現在のサイバー脅威環境において、実用的で効果的な解決策の一つと言えるでしょう。