滋賀県立図書館で発生した不正アクセス事件の全貌
2025年7月、滋賀県立図書館のホームページが不正アクセスを受け、約2ヶ月間にわたってサービス停止を余儀なくされる深刻な事件が発生しました。
現役CSIRTとして数々のサイバー攻撃に対応してきた私が、この事件を詳しく分析すると、非常に巧妙かつ執拗な攻撃手法が用いられていることが明らかになります。
攻撃の時系列と手口
調査結果によると、攻撃は以下の時系列で実行されました:
- 2025年2月28日:初回の不正書き込み発生
- 4月3日:2回目の攻撃実行
- 5月26日:3回目の攻撃(翌日に発覚)
- 5月27日:利用者からの指摘で発覚、即座にサイト閉鎖
注目すべきは、攻撃者が約3ヶ月間にわたって継続的にアクセスを試みていた点です。これは単発的な愉快犯の仕業ではなく、組織的・計画的な攻撃であることを示しています。
パスワード総当たり攻撃(ブルートフォース攻撃)の恐ろしさ
今回の事件で最も深刻なのは、ID・パスワードの総当たり攻撃が成功してしまったことです。
私がこれまで対応してきた事例でも、この攻撃手法による被害は後を絶ちません。
実際の被害事例
事例1:中小企業のECサイト
– 攻撃手法:管理画面への総当たり攻撃
– 被害状況:商品データ改ざん、顧客情報約5,000件流出
– 復旧期間:3週間
– 損失額:約800万円(売上損失+対応費用)
事例2:個人事業主のブログサイト
– 攻撃手法:WordPress管理画面への総当たり攻撃
– 被害状況:マルウェア設置、フィッシングサイトへの誘導
– 復旧期間:2週間
– 損失額:約50万円(復旧費用+信用失墜)
なぜ図書館のような公共機関が狙われるのか
一般的に「図書館なんて狙われないだろう」と思われがちですが、実際には以下の理由で格好の標的となります:
1. セキュリティ対策の甘さ
– 予算不足による古いシステムの使用
– セキュリティ人材の不足
– 定期的なアップデートの見落とし
2. 信頼性の悪用
– 公的機関としての信頼を悪用
– フィッシング詐欺の踏み台として利用
– マルウェア配布の隠れ蓑として活用
3. 攻撃の練習台
– 比較的防御が弱い
– 攻撃手法の検証場所として利用
– より大きな標的への足がかり
あなたのWebサイトも同じ攻撃を受けている可能性
実は、インターネット上のあらゆるWebサイトが、24時間365日、自動化された攻撃を受け続けています。
攻撃の実態
私が運営するハニーポット(おとりシステム)の観測データによると:
- 1つのWebサイトに対して1日平均2,000回以上のログイン試行
- 攻撃の90%以上が海外からのアクセス
- 使用されるパスワードは辞書攻撃と総当たり攻撃の組み合わせ
つまり、あなたのWebサイトも例外なく攻撃対象になっているということです。
今すぐ実践すべき5つのセキュリティ対策
1. 強固なパスワード設定
– 12文字以上の複雑なパスワード
– 英数字+記号の組み合わせ
– 定期的な変更(3ヶ月ごと)
– パスワード管理ツールの活用
2. 二段階認証の導入
– SMS認証
– 認証アプリ(Google Authenticator等)
– ハードウェアトークン
3. システムの定期更新
– OS・ソフトウェアの最新版適用
– セキュリティパッチの即座適用
– 定期的な脆弱性スキャン
4. アクセス制限の強化
– 管理画面へのIP制限
– 不要なアカウントの削除
– 権限の最小化
5. 監視・検知システムの導入
– 不正アクセスの検知
– ログの定期分析
– 異常な通信の監視
個人・中小企業が実践しやすい具体的対策
個人サイト・ブログ運営者向け
WordPress利用者の場合:
– セキュリティプラグインの導入(Wordfence等)
– 管理画面URLの変更
– ログイン試行回数の制限
– 定期的なバックアップ
レンタルサーバー利用者の場合:
– WAF(Web Application Firewall)の有効化
– SSL証明書の導入
– 定期的なマルウェアスキャン
中小企業向け
社内システム管理者の場合:
– ネットワークセキュリティの強化
– 従業員教育の徹底
– インシデント対応計画の策定
– 定期的なセキュリティ監査
プロが推奨する包括的セキュリティ対策
多層防御の重要性
セキュリティ対策は「多層防御」が基本です。一つの対策だけでは不十分で、複数の対策を組み合わせることが重要です。
第1層:エンドポイント保護
個人のパソコンやスマートフォンのセキュリティが最初の防御線です。アンチウイルスソフト
は、最新の脅威に対応した包括的な保護を提供し、マルウェアやフィッシング攻撃から確実にデバイスを守ります。
第2層:通信の暗号化
インターネット通信の暗号化も重要な対策です。特に公共Wi-Fiを利用する場合、VPN
を使用することで、通信内容を盗聴されるリスクを大幅に軽減できます。
第3層:Webサイトの脆弱性対策
企業のWebサイトを運営している場合、定期的な脆弱性診断は必須です。Webサイト脆弱性診断サービス
により、専門家による詳細な診断を受けることで、潜在的な脅威を事前に発見・対策できます。
被害に遭った時の対応手順
万が一、不正アクセスの被害に遭った場合の対応手順を示します:
緊急対応(発覚後24時間以内)
- システムの即座停止:被害拡大を防ぐため
- 証拠保全:ログファイルの保存
- 関係者への連絡:上司、取引先、関係機関
- 初期被害状況の把握:何が改ざんされたか
詳細調査(発覚後1週間以内)
- フォレンジック調査:専門業者による詳細分析
- 被害範囲の特定:影響を受けたデータの特定
- 攻撃手法の解明:再発防止策の検討
- 復旧計画の策定:安全な復旧方法の検討
復旧・再発防止(発覚後1ヶ月以内)
- システム再構築:クリーンな環境での構築
- セキュリティ対策強化:新たな防御策の導入
- 運用体制の見直し:管理プロセスの改善
- 継続監視体制の確立:定期的な監視の実施
まとめ:今すぐ行動を起こしましょう
滋賀県立図書館の事件は、どんな組織でも、どんな個人でも、サイバー攻撃の標的になり得ることを明確に示しています。
重要なのは「自分は大丈夫」という思い込みを捨てることです。
現在、あなたのWebサイトやパソコンも、この瞬間にも攻撃を受けている可能性があります。被害に遭ってから後悔するのではなく、今すぐ適切な対策を講じることが重要です。
私のこれまでの経験から言えることは、事前の対策にかかるコストは、被害に遭った後の復旧コストの10分の1以下だということです。
行動を起こすのは今です。明日ではありません。
セキュリティ対策は投資であり、あなたの大切なデータ、信用、そして未来を守るための必要不可欠な投資なのです。