2025年7月、自治体向けノーコード電子申請システム「LoGoフォーム」を運営する株式会社トラストバンクで、深刻なセキュリティインシデントが発生しました。399名の利用者アカウントに対する不正アクセスが確認され、個人情報の一部が閲覧された可能性があります。
現役のCSIRTメンバーとして、このような事件を日常的に調査している立場から、今回の事件の手口と、個人・企業が取るべき対策について詳しく解説します。
事件の概要:組織的な不正アクセス攻撃
今回の事件は、2025年7月10日(木)未明から11日(金)昼にかけて発生しました。攻撃者は「多数のメールアドレスとパスワード」を使用してログインを試みており、これは典型的なクレデンシャルスタッフィング攻撃の手口です。
クレデンシャルスタッフィング攻撃とは、他のサービスで流出したメールアドレスとパスワードの組み合わせを大量に試すことで、パスワードを使い回しているアカウントへの不正ログインを狙う手法です。攻撃者は自動化ツールを使用して、短時間で数万、数十万のログイン試行を行うことが可能です。
被害の詳細
今回の不正アクセスで閲覧された可能性がある情報は以下の通りです:
- 氏名
- 住所
- 電話番号
- 生年月日
- 性別
- メールアドレス
幸い、申請データについては閲覧されていないことが確認されており、現時点で情報の不正利用は確認されていません。
フォレンジック分析から見る攻撃手法
このような事件の調査において、私たちフォレンジックアナリストが注目するのは以下の点です:
攻撃の時系列
攻撃は7月10日未明から11日昼にかけて実行されました。これは攻撃者が検知を回避するため、システム管理者の監視が手薄になる時間帯を狙った可能性があります。また、約1日半という期間は、攻撃の成功率を上げるために時間をかけて慎重に実行されたことを示しています。
攻撃規模の推定
399名という被害者数は、攻撃者が相当な規模のメールアドレス・パスワードリストを保有していたことを示しています。このようなリストは、過去の大規模データ漏洩事件や、ダークウェブで売買されている可能性が高いです。
個人が取るべき対策
このような攻撃から身を守るために、個人ができる対策を紹介します:
1. パスワードの管理強化
最も重要なのは、パスワードの使い回しを絶対に避けることです。各サービスで異なる強力なパスワードを使用し、パスワード管理ツールを活用しましょう。
2. 二段階認証の設定
可能な限り二段階認証を設定してください。パスワードが漏洩しても、二段階認証があれば不正アクセスを防ぐことができます。
3. セキュリティソフトウェアの導入
個人情報を守るために、信頼できるアンチウイルスソフト
の導入をおすすめします。リアルタイムでの脅威検知や、フィッシング攻撃からの保護機能が重要です。
4. 通信の暗号化
公衆Wi-Fiを使用する際は、VPN
を使用して通信を暗号化しましょう。特に重要な情報を入力する際は必須です。
企業・組織が取るべき対策
今回の事件から、企業や組織が学ぶべき教訓も多くあります:
1. アクセス制御の強化
IP制限、多要素認証、異常ログインの検知システムの導入が必要です。特に、短時間での大量のログイン試行を検知するシステムの構築が重要です。
2. 監視体制の強化
24時間体制での監視システムの構築や、異常なアクセスパターンを自動検知する仕組みの導入が効果的です。
3. 定期的な脆弱性診断
Webサイトやアプリケーションの脆弱性を定期的にチェックすることで、攻撃を未然に防ぐことができます。Webサイト脆弱性診断サービス
を活用して、専門家による診断を受けることをおすすめします。
被害を受けた場合の対応
もし不正アクセスの被害を受けた場合、以下の対応を迅速に行う必要があります:
1. 即座にパスワードを変更
被害が確認されたアカウントだけでなく、同じパスワードを使用している他のサービスでも即座にパスワードを変更してください。
2. 二段階認証の設定
まだ設定していない場合は、すぐに二段階認証を設定しましょう。
3. 不審な活動の監視
クレジットカードの利用明細や銀行口座の取引履歴を定期的にチェックし、不審な活動がないか確認してください。
4. 関係機関への連絡
被害が拡大している場合は、警察や関係機関に相談することも重要です。
まとめ:包括的なセキュリティ対策の重要性
今回のLoGoフォーム不正アクセス事件は、クレデンシャルスタッフィング攻撃の脅威を改めて浮き彫りにしました。パスワードの使い回しという、一見小さな問題が、大きなセキュリティリスクにつながることが証明されました。
個人レベルでは、パスワード管理の徹底、二段階認証の設定、そして信頼できるセキュリティソフトウェアの導入が必要不可欠です。企業レベルでは、監視体制の強化、アクセス制御の徹底、定期的な脆弱性診断の実施が重要です。
サイバー攻撃は日々巧妙化しており、個人も企業も継続的な対策が必要です。今回の事件を教訓として、より強固なセキュリティ体制を構築していきましょう。